『ねえ、私ね、ジョシュアがね、歳とって、先に死んじゃって、骨になってもね、
 忘れないで、ずっと思ってるよ。そして、ずっと唄いつづけるから!』
『何を?』
『ジョシュアの唄!』
そういうと、少し苦笑して、彼は私に言った
『……ありがとう』




「……っティティス!」
ざっと後ろで砂埃が立つ音がして、もう聞きなれた声が聞こえた。
……来ちゃったのね。
そう思ってゆるりと後ろを振り向く、
そして口を開く “いつもと、同じように”
「どうしたの?“ジョシュア”こういう時こそ、シャロットと話す時でしょ?
 こんな時めったにないんだから、逃げ出してきたんなら一発……」
「違う!」
珍しく彼が声を荒げた。
「違うんだ……そうじゃなくて……」
そう言った彼は、俯いた。とても、辛そうに。
そして、彼は顔をあげた。すがるような眼差しで。
「ティティスに、聞きたいことがあるんだ」
「……私は聞きたくないわ」
聞かれる内容は分かってる。
そして、聞かれたら最後ということも。
だから、私はできるかぎり冷静を装って、冷たく言い放ち、
そのまま背を向けて走り出す。
すると彼が追ってくる足音が聞こえた。

ダメ。来ないで。

『……っウインドストームっ!!!!』

後ろに向かって技を放つ。
ドンドンと激しい音がするけれど、彼は勢いを止めずにそのままの速度でこちらに迫ってくる。
爆風にあおられても、そのまま向かってきた彼は、パシリと私の腕を掴み、
勢いもそのままに力まかせに私を引き寄せた。
「君は、昔の……黒王を倒した傭兵の“ティティス”なんだろう?」
疑問ではない、ほぼ確信を得た問いに、思わず背けていた顔を向けると、
彼のまっすぐな瞳に捉えられた。
そんなこと、あるはずがないのに、その色はまるで炎を映したように赤く見える。
まるで『彼』のように。
「……そうよ」
その思いを断ち切るがごとく、乱暴に手を振り払って短く答える。
「……そうか」
彼も、抵抗することなく、手を外し、そのまま息をつく。
「シャルロットから聞いたけど……その昔の傭兵の『ジョシュア』って人に
 僕がそっくりだってことも、本当なのかい?」
「……そうね、そっくりよ」
「そう……なんだ」
「でも、違うわ」
「え?」
そのまま、走り去ることもできたし、攻撃をくらわせて、気絶させることだって、
望めばできたはずなのに、何故か私はそれをしなかった。
口をついて出た言葉は、自分の意志に沿わずに流れた。
「分け目が違うし、自分の心の動きはちゃんと把握してるみたいだし、
 若干ヘタレ度が上だし……シャロットが、好きだし」
そこまで出た言葉に、思いの関が切れた。
心の奥から、胸の奥から、どんどん熱いものがこみ上げてくる。
「でも、似てるの!違うけど、似てるの!」

似てるけど、違っていて、違うけど似ていて、



その事実がどれほど、どれほど、心を乱したか。



「……唄い続けるって、約束したの」
一週間前したように、空を見上げる。
あの時は星が瞬いていたけれど、今はどんよりと薄暗い雲があたりを覆っていた。
「私はずっと、みんなのこと、ジョシュアのこと、唄いつづけられるってそう思ってた。
 忘れなければ、みんな私の側にいるって。ずっと、一緒にいるって!
 ……だけど」
何かが頬をつたっていた。でも、もう気になんてとめられなかった。
「気づいたの。貴方と過ごしていて、気づいたの。
 私、やっぱり“会いたい”」
ぽつりぽつりと何かが落ちてきて、
徐々に激しさを増す。まるで、私の心を反映するかのように。



「会いたいの!会いたい会いたい会いたい会いたい!!!」



もう私の知っているあの人は、この世界には生まれてこないのは分かってる。
ずっと一生、同じ人は生まれてこないんだって。
だけど、似ている貴方を見ていたら、側にいたくて。一緒にいたくて仕方なくて。
でも、一緒に過ごしていくうちに、、改めて思い知らされた。

“貴方は、私が会いたい人じゃない。”

「会いたい、会いたいよ……
 会って話がしたい、一緒にいたい!
 話して喋って一緒にいて笑っていたい!!!
 みんな……ジョシュア!!!!!!!」


開放された思いの重さに、その場にくずおれる。
ねえ、お願い。どうか。どうか。

時は過ぎ去るものだから尊くて、取り戻せないからこそ貴重で。
だけどだけど思ってしまう。
願ってしまう。
涙と共に、今唄うのは、その思いだけ。


あなたの面影、あなたの声、あなたの姿。
思い出じゃなくて、今そこにいる、
『一緒にいられる』、幸せを。



―その唄を彼は聞いている。
強い雨粒に全身をぬらして泣く彼女を、
ただただ、見守っている。
何一つ、何一つ実るはずもなく、
またかなえてあげることさえできない思いに心を痛めて。
それでもただ静かに聞いている。

―その唄を彼女は遠くで聞いている。
空は黒くくもっていて、強い雨が降っていて。
何一つ、何一つ、してあげることもできない自分を悔やんで。
それでも、ずっと聞いている、彼女のうたを。

―風のうたが聞こえる。遠くて、近くて、温かいものに捧げる、風のうたが。
空は黒くくもっていて、強い雨が降っていて、
何一つ、何一つ実るはずもない思いを、彼女は唄う。
いとおしみ、なげいて、それでも求める、
泣き声に載せた、『風のうた』を。


fin


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よし……やっとおわったぜ……どれほど本編掲載中にツッコミたかったことかぁあああああ!
…しかし、なんかもうすみません(土下座)

え、ちょっこれで終わりかよおおおおお!?
と思われた方。
すいません。本当にこれで終わりです。
ここである程度のオチをつけようとも思ったのですが、
あとがうすっぺらくなるなーということで、あえてここで切りました。

エルフの設定は、分かりやすい設定をピックアップしているので、
これが、真実かどうかは分からないのですが、
でもどちらにしてもエルフは長生きなので、
普通に行けば、ティティスはみんなを見送ることになるんですよね。

で、その事実をティティス自身は、今は「ある程度」な認識をしてるだけだとは思うんですが、
時間が経てば、真面目に、真剣に認識すると思います。
その上で、みんなと一緒にいることを選んで、日々を過ごすなら、
覚悟もできてるし、みんなやジョシュアのことを忘れずにでもめげずに生きていけると思います。

だけど、もし、ひょっとして、似てる人に出会ったら?

名前から顔から思い人にそっくりの人が現れたら、どうするんだろう。
その際、果たして『思い出の中』にいるから大丈夫だって、そう笑っていえるものなのだろうか。
似てるけど、違っていて、違っているけど、似ていて、
その存在を見れば見るほど、自分が会いたい人とは違うことに気づかされて、
もう会えることはないけど、大丈夫、なんて思いより、
本当に会いたい人に、会いたいって思うんじゃないかな。
などとグダグダ考えていたら、こんな話になりました。(そらグダグダになるわ)
……なんか揺れる心を書きたかったのかなぁ、などと思ってます。

あと、今回の話はそれとは別に、
なんか違う設定で驚かせたいとかそういう邪心も含まれていたりしま……す。
最初のジョシュアとシャロットをいかに
ホンモノっぽく見せるかでいろいろ試行錯誤しました。
……でもテストで見せた弟には『ちがくね?』って初見でいわれた悲しさよ。
ほんとすいません。なんかもう全国のジオファンのみなさんに謝りますほんと。
……ほんとは異色作ってあんまり描かないほうがいいんでしょうけどね……
描かずにはおられなかったんだ!ということで。

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