『そして、エルフと傭兵の剣士は、めでたく幸せに暮らしました。』
『ふーん』
『ふーんじゃないの!あんた、これって激的なことなのよ?
今エルフを外でよく見かけるのは、この二人あってこその出来事なんだから』
『えーじゃあ、すごいねぇ』
『あーもうまったく、あんたはロマンがないねぇ……
母さんは憧れるよ。だって、一世一代の恋が実ったんだよ。
この女のエルフさんはとっても嬉しかっただろうねぇ』
―風のうたが聞こえる。遠くて、近くて、温かいものに捧げる、風のうたが。
彼女がセッティングするといった、「二人きりになる時間」が訪れたのは、
あれから一週間経った日だった。
本当に彼女は『セッティング』したようで、
見計らったかのように、任務があるものは任務へと趣き、
そのほかの者は修練場へと出向き、実質、本当に二人きりの状況になったのだ。
「ほーら!しゃきっとしなさいよー!
ここで尻ごんだらぶっ飛ばすからね!文字通りウインドストームでv」
バンッと背中を叩かれてむせる。
彼女は本当に容赦がない、いろんな意味で。
でも、確かに彼女がこんなことをしてくれない限り、
僕自身から打ち明けることなんてできるはずもなかったから、
ここは素直に感謝するべきなのかもしれない。
「あの……ティティス」
「ん?なーに?」
「その……ありがとう」
素直に言うと、彼女の表情が一瞬、前見たような、優しくて、でも悲しい表情になって……
すぐに、いつものような元気な表情になっていった。
「なーに水臭いこと言ってんの!
あたしが体張った分、ちゃーんとやることは果たしてきなさいよね!
シャロットは中庭にいるから、しっかりね!」
そういうと、ドンッと背中を押されて、僕は宿舎を出たというか、実質押し出された。
「あ……の……」
本当に、いわれたとおり、彼女は中庭にいた。
小さなベンチで本を読んでいるのだろうか、絵に描かれたような姿に、息を呑む。
しばらく声をかけようか迷っていたけれど、
遠くの建物の陰から行け!と合図するティティスの姿に意を決して、僕は声をかけた。
「はい?」
彼女が、見ていた本から目を離してこちらを見上げてきた。
うわ、間近でみるのは、初めてではないのに、何故か心臓がうるさくてしょうがない。
次に話しかける言葉にとまどって、テンパった僕は、
「きょ、今日はいい天気だね」
……などと言って追って空を見ると、空は見事に薄曇りだった。
……ダメだ。情けなさ過ぎる。
緊張しすぎてこれってどういう……
恐る恐る、彼女の表情を見ると、はじめきょとんとしていた彼女は
やがて顔を綻ばせて笑った。
「そうですね。今日はお日様が照っていませんから、
訓練としてはちょうどいいですわね」
そのフォローだけで、たちまち救われた気分になる僕は現金だろうか。
「それに、気温も暑くもなく、寒くもなくて、お話日和だとも思いますわ。
……ちょうど、私もジョシュアさんとお話したいと思ってましたの。
よろしければ、お隣どうぞ」
そういって開けられたスペースに、遠慮がちに座った。
……彼女から話しかけてくれるなんて、そんなことは思ってもみなかったので、
嬉しさと、緊張がまじりあう。
仲間としては幾度となく言葉を交わしたけれど、
プライベートで、しかも二人きりで話すなんてのは稀だ。
だいたい、間にはティティスがいて、賑やかに3人で話しているのが常だったからだろうか。
そうすると、今日は頑張らなくては、という思いが再びあがってきた。
「シャロットは……何の本を見ているんだい?」
「……え?」
勇気を出して出した言葉に、彼女はきょとん、とした顔をした。
しまった、という思いが全身を駆け巡り、慌てて訂正する。
「ご、ごめん、いつもティティスが言ってるからつい……
“シャルロット”は何の本を読んでいるんだい?」
言い直すと、彼女はふと笑った。
……その顔が、先ほど見たティティスの表情ととても似ていて。
僕は、言葉をなくした。