「……珍しく、思い出しちゃいましたねぇ」
くすくすと苦笑して、前を見つめる。
それからいろいろあって、やっぱり人は信用できないなどと思った時期もあったけれど、
名前も知らない老人の言葉は、今でも胸に響いて、自分の中に根付いているのは確かだ。

「さて、と。」

目の前には、昔あった光景とほぼ同じ状況が繰り広げられている。
ただ違うのは、昔と違い、老人の髪の毛がないことと、理解ある人間ではないということか。
『僕がやりました』といった少年と、その子に怒声をあびせかけている老人の輪の中に、
ジュランは一歩足を進めた。
「はいはーい、ちょっと失礼しますよー」
「んあ?なんじゃお前!」
いきりたつ老人をどうどうと抑える。
「まあまあそう興奮せずに。私は通りがかりのものですけど、
 偶然現場に居合わせましてねー。
 見ちゃったんですよ、お宅のガラスが割れた瞬間。
 因みにガラスを割ったのはその子じゃないですよ。
 そうですねぇ……ああ、ほらほら、そこの子ですね」
にこにこと笑顔を崩さずに、しかし容赦せずリーダー格を指差すと、
指差された子供は真っ青になる。
対する、はげた老人は赤味がかった顔を更に真っ赤にさせて、ぶるぶると震えだし……

「おのれぇえええ!こわっぱの分際でわしを騙しやがって!
 ほら!こい!!お前らのその曲がりきって腐った根性をたたきなおしてやるわ!」


「うわああああああっ!」
今にも殴りかかりそうな老人に子供たちはわっと蜘蛛の子を散らすようにちりぢりに走り出す。

「おやおや。これは凄い光景ですね。
 いうなれば“ざまあみろ”って感じですか」
一人頷いて、先ほどまで犯人に仕立て上げられていた子をちらりと見る。
子供はぽかんとした様子でしばらく立ちすくんでいたが、やがて正気になったようで、
恐る恐るジュランの方を向いた。
「……あ……の……」
何をいうべきか、悩んでいるのか、歯切れ悪く呟く少年に、ジュランはにっこりと。
ある種の営業用とでもいえる笑顔を向けた。
「今回はたまたま私が見ていてよかったですね。
 だけど、もし見ていなかったら、貴方はいわれもない罪のために、
 あの老人にさんざん罵声を浴びせられたでしょう。もしかしたら手も出されたかもしれません。
 今回無事すんでも、これからも同じことが起こるたびに
 貴方はまた同じような被害にあいつづけますよ。
 他人の罪を被り続けるなんて、人生楽しくないと思いませんか?」
「………………」
ジュランの言葉に、少年はあげかけていた顔を俯かせた。
もしかしたら、今回が初めてでなく、もう彼は幾度も同じことをさせられていたのかもしれない。
「……ああ、ごめんなさい。言い方が少々キツいですね。
 まあでもこれが私の性分なので、カンベン願いたいものですが……
 そうですね。ですから私が言いたいことは……」
ジュランは徐に紙袋をあさると、黒猫の絵がついたメモ帳を取り出し、
そこに黒猫のついたペンでさらさらと描いて、

「はい、これ持っていてください」

そのメモ帳を少年に渡した。
「あの……」
急な展開についていけていない少年に、メモを開くように促す。
「字、読めますか?これは「エステロミア傭兵団」ジュラン、と書いてあります。
 要は私の仕事先と、名前です。
 それでこれは簡単な地図です。結構大きな目安が描いてありますから、
 分かると思いますが……まあ分からなかったら聞けば分かると思います。
 そこそこ、有名なとこですからね。」
それで、と一呼吸置くと、困惑してこちらを見ている少年の目を見つめた。

「ですから、私が言いたいことは……
 貴方が思うより、世の中には捨てた奴ばかりではないということですよ。
 そして、私は……貴方の味方ということです。
 何か困ったことがあったら、来てください。
 ココアはあいにくありませんが、
 紅茶くらいは出して、話くらいは聞きますよ」

少年の瞳が大きく見開かれた。
それを見たジュランはくすりと微笑む。
その微笑みが、その眼差しが、あの時の老人の温かさと変わらないことに、
彼自身は、気づいていない。


fin


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あとがき

今回は、ジュランが主人公でした。
なんだか、ジュランが描きたかったんです。

ジュランは孤児というイメージが強いので、
孤児院ってかそういう施設に入れられている、という風な設定にしています。
ジュランは私の成長と共に、一番認識が変化した人で、
それゆえに、掴みきれないところがありましたし、今でも掴みきれてはいないと思います。
でも今回よりはっきりしたことは、ジュランは「自分の正義を貫く人」だということかなぁと思いました。
それが時に自己中心に見えたり、人のこと考えてないように見えるけれど、
ちゃんと人のことも考えていて、、自分のルールで物事を判断し、
そして、自分なりに、人を信じているのではないかなと、
今回の話を書くにあたって思いました。
前よりもジュランのことが身近に感じられてよかったと個人的に思っています。

スポーツとか展開がなんかもう日本情緒をかもし出しているのは、
カンベンしてやってください(笑)
でもどこでもありそうなだもん(笑)

ここまで読んでいただいていたら、ありがとうございました(^^)

  

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