―世間は、お前が思うより、捨てた奴ばかりじゃない
……だから、諦めるな。
きっと君が思うより
「ああ……本当に今日はよい買い物をしました」
ほくほく顔をして道を歩いていたジュランは、1人、楽しそうに呟いた。
久しぶりの休日、部屋で実験三昧、という日を送るのがいつものスタイルだったが、
今日は隔月に一日しか開店しないという猫グッズ専用店の開店日だったので、急遽、買出しへと変更したのだ。
持ってきた買い物袋では足りないほどの品物に、店主はこれもおまけだ、と
商品の買い物袋に、入らなかった分の商品を詰めて送りだしてれた。
「これ、キャス君にもあげたら喜ぶでしょうねぇ」
小さな黒猫のメモ帳をつまんで、小さなケットシーのことを思い、また表情が和む。
実験好き、マッドサイエンティスト、華麗な魔術師……
通り名はいろいろあるが、今はきっと全部当てはまらないだろうなと自分のことなのに少し可笑しく思った。
カン!
そんな風に楽しげに道を歩いていると、
ふいに何かが当たるような音が聞こえた。
『おい!そっちいったぞ!』
『外野玉とれー!』
音と共にいっせいに沸いた声に反射的にそちらの方向に顔を向けると、
遠目に、草が生い茂る場所の一角で、子供達が遊びに興じている姿が目に飛び込んできた。
「なるほど、アレですか」
合点がいったように頷く。男子ならよく集まればする非常にポピュラーな遊びだ。
球を放って、それに木の棒をあてて、点数を競うゲーム。
まあ、大抵球を投げるのは、子供達の中心になるような人物、
棒を持って構えているのは、その子と仲の良い取り巻き、
それ以外は寄せ集め、という構図になってしまうのは、
どの時代であっても変わらない、ということは子供達の様子から簡単に見て取れた。
そういえば、自分も、その寄せ集めの中に入れられたことがあったような、と
うすぼんやりとした記憶をたどっていると、投げられた球が変な方向に放物線を描くのを見た。
「あ」
ガシャーン!!!
思わず出た声から一拍遅れて、少し離れた所に構えていた家のガラスが盛大に割れる音が響いた。
外の冷たい風よりももっと冷たい、
例えて言うなら、ブリザードでも吹きすさぶような空気が子供達の間に流れたのが、遠目からでも見て取れる。
どうしよう、どうする?と事の重大さに子供達が球を投げたリーダー格の子供の元に集まりだしたとき、
こらーーーーー!!と明らかに怒りを露にした怒声が当たりに木霊した。
飛び出してきた、その家の主と思わしき人物は、投げられた球を持ち、顔を真っ赤にして
すくみあがった子供達の前に仁王立ちになる。
「俺の家に球を投げ込んだ奴はだれだ!!??」
地獄の底から這い上がるかのような声とともに、
髭を豊かに蓄え、頭部が少しはげかかった主の形相は、子供達を威圧するには十分だった。
「誰なんだ!?」
固まって、何もいえない子供達に向かって、主は再度声を荒げる。
これはもう逃げられない、そう思ったのか、球を放った張本人である
リーダー格の子供は、若干裏返った声で、別の子供を指差した。
「こ、こいつです!」
指差された子供が、驚きで目を見開いたのが見えた。
「こいつがやったんです!」
名指したことで勢いがついたのか、リーダー格が再度まくしたてるようにいうと、
周りにいる子供達もここぞとばかりに便乗して騒ぎはじめる。
「そ、そうだ!おまえがやったんだろ?」
「おい、ちゃんと謝れよ!」
口々にいわれのない言葉を投げかけられたその子供は、
最初こそ戸惑っていたような表情を見せたが、
やがて、何かを悟ったのか、騒ぎ立てる子供達の声に否定もせず、
黙って下を向き、か細い声でいった。
「……僕が、やりました。……すみません。」
デジャヴ。
その、全てを把握し、全てを享受し、全てを……諦めている表情に、
今までもやがかかったようにぼんやりとしていた記憶が、
鮮やかに蘇った。