「さあ、早く金目のモンはあさり出せ!」
「ザ・リベンジオブ・シルバーウルフ」リーダー格の機嫌は上々だった。
全てが計画通りに進んでいる。
周りを見渡したところ、傭兵や騎士団、自警団らしき人間は見渡らない。
まあ、いたとしても人質がいたんじゃ手を出せないだろうが。
盗賊の仕事は先手必勝。いかに素早く物を奪い、いかに素早く逃げ切れるか、それが重要だ。
この後の計画はあと20秒で金目のものを奪い、
あとは人質の首などに適当に、しかしそこそこ大きなキズを付け、トンズラするだけ。
人質の状態が悪いのなら、そちらに気をとられるだろう。
自分達への対応を迷わせる。それが一番効率のよい逃走手段。
怯える人質を見て、にやりと口元をゆがめる。
運が悪かったな。まあ、あと生きるか死ぬかの運は、おまえさん次第だ。
そう思った瞬間、「ぐあっ」という音と共に、目の前の護衛につけていた3人のメンバーが
同時にくずおれるのが見えた。
「な……」
驚いて、前方を見ると、金色の髪を靡かせた人物が、正に武器を投げた姿勢で立っていた。
「おのれ……」
やられた!と思った瞬間ごいん、と鈍い音がして、リーダー格の頭に棒が突きたてられる。
「はやく!」
反動で突き飛ばされかけるリーダー格の腕から、人質の腕を掴んでハヅキは走った。
「く……そ、おいお前ら!」
リーダーの召集にすぐさま他の団員が店内から現れる。
しかし、交戦体制に入ったかと思われた団員達はすぐさま店を後に走り出した。
「なに……!?」
「へへ……人質を取られて、頭に血が上った俺たちがすぐさま戦闘に入ると思ったか?
……甘いんだよ。もう20秒は経った。 金目のモンは奪うだけ奪ったってことだ!
あとは……逃げるが勝ちってことさあ!」
言い捨てると、頭をしこたま打ち付けたハズのリーダー格もすぐに起き上がり、逃走体制に入る。
「逃がさない……っ!!」
『キャス』がすぐさま後を追う……が『キャス』は気づいていなかった。
自らが倒したはずの三人の内の一人が起き上がって、背に爆弾を投げていたことに……
「キャス!!危ないーっっ!!!」
ちりちりと勢いよく導火線を伝った炎は、キャスの頭上で勢いよく爆発した。
「キャスーーーーーー!!!!」
そんな、よりにもよって頭上で爆発するなんて!
爆弾を投げた奴の頭を思いっきり殴りつけてから、叫ぶ。
頭上は致命的だ。他ならまだ望みはあるが頭をやられたら太刀打ちできない。
「キャスー!!!」
思いっきり、喉が枯れるほど大声で叫ぶと、もわもわ、とした白い煙が立ち込めた中から、
ごそりと陰が動いたのが見えた。
「キャス……?」
「にゃ……ハヅキ……にゃん?」
煙が晴れた中には、小さくなった……いや、ハヅキがよく知っている、小さなケットシーであるキャスが、
目をしばたたかせていた。
「にゃ……ん?なんでキャスこんなとこにいるにゃん……」
ごそごそと動き出そうとするが、大きな服につまづいて、ぽてっとこける。
「……服、ぶかぶかにゃん」
その様子がとてもおかしくて、でも、本当に助かってよかったと思って、
ハヅキは思わずキャスを抱きしめた。