「ねぇ、ファイン」
「なに?レイン」
「私たちね。いつかは二人、遠く離れないといけなくなるわよね」
「ええ、そ、そうなの!?ずっとレインと一緒じゃないの!?」
「そりゃ私だってファインとずうっと一緒にいたいわよ。
……でも、他に好きな人ができて、別々のところで暮らす日がくると思うのよね。
だって私たちは双子だけど、別々の人間だもの」
「そんな……寂しいよ……」
「でもね。私たちはふたごよ?」
「ふぇ?う、うん」
「だからね。他に好きな人ができても、離れていても、
心はずうっと一緒だからね!」
「……うん、そうだね。ずっと心は一緒だよ!」
朝一番の空を見上げると、まだ星がいくつも残っている空は雲ひとつ無く澄んでいて、
快晴の印を告げていた。
「良かった!今日はいいお天気になりそうだよ!」
ファインは心弾ませて、隣にいるまだすやすやと眠っているレインに嬉しそうに微笑みかけた。
「わーすごいすごいっ!いろんな料理がたくさん並んでるよーっ!」
ファインはテーブルに盛り付けられているたくさんの料理の山に目を輝かせた。
三つ子の魂百まで。成長したとは言え、美味しいもの好きは変わらない。
以前のように所構わず食べまくるということはしなくなったが、
食欲旺盛なのは相変わらずだった。
「……食べ過ぎて腹壊すなよ。……て、まあ壊さないのがお前なんだろうけどな」
隣に居るシェイドが呆れたように注意した。注意というより小言だろうが。
「でもまあ、さすが宝石の国だねー。フォークにまで細工がしてあるなんて、凝ってるなぁ」
二人の隣にいるアウラーが感心すると、
「当然ですわ。技巧は宝石の国が他の国に誇れるお家芸なんですからね!」
なんか微妙にズレている発言をしているような気がするが、
とりあえず、アルテッサが誇らしげに言った。
「ま、しっかし、まとまるのは一番遅かったくせに、
結婚式は一番乗りとは……手回しがよくて感心するやら呆れるやらだな」
「お兄様は、そうと決めたら行動は早いんですのよ。
……決まるまでがそれはそれは長い道のりなんですけど」
ふうとため息をつくアルテッサはそれでもとても嬉しそうな表情を崩さなかった。
「そうえいば、これで、宝石の国にレインが行くってことになると……
じゃあ、シェイドがおひさまの国を継ぐってことになるのかな?」
アウラーが思い出したようにいうと、シェイドが頷いた。
「ああ、後々はそうなる。
……だが、トゥルース王もエルザ王妃も、それはまだ先でいいと言って下さった。
今はあなた達がしたいことをしてください、と、そういわれたから、
暫くは月の国で働こうと思ってる」
「え、じゃあファインは月の国に住むことになるんですの?」
「うん、そうなるね。結構楽しみなんだー」
嬉しそうに頷くファインにシェイドが微笑をうかべて頭をぽんと叩いた時、
ぱんぱんと式の開始合図が響き渡った。
「わ、はじまるみたいだね!」
ファインが目を輝かせた。
式はつつがなく行われ、ファインもゆっくりと楽しむことができた。
レインは本当に綺麗だったし、
ブライトはこの時ばかりは少しどきりとするほどかっこよかった。
ま、シェイドには敵わないけど。
そう1人ごちて、ふと、寂しいという気持ちが心の中に沸き立つ。
この寂しさの正体は分かっている。
だけど、今は寂しい気持ちになるときじゃない。
姉の、半身の、一世一代の一生に一度の、一番幸せなときなのだ。
この時こそ精一杯嬉しがっておかないと!
ファインはそう思うと、寂しさを締め出すために、目の前の料理に手をつけた。
式は無事に終わり、終わったあとはすぐ片付けがはじまる。
宝石の国らしい派手すぎる演出は時にやりすぎだと思ったくらいだったが、
実はそれはブライトやレインの意向ではなくカメリア王妃の意向で、
これでも最初の60%の案はなんとかボツにしてもらったというのはレインに聞いた話である。
100%の案のまま行っていたらどうなったのか……
怖い気もするが同時に見てみたい気もした。
「……終わったね」
「ええ」
ウェディングドレスから、やっと移動用のシンプルなデザインのドレスに着替えたレインは小さく頷いた。
それから、二人の間に会話は無かった。
今日はとっても綺麗だったよ。とか、
あの100色花火は凄かったね。とか
ごはんがとっても美味しかったとか、
そういうたわいのない話をたくさんしようと思っていたのだけれど、
何一つとして言葉に出てこなかった。
それはレインの方も同じようで、二人は同じ部屋にいながら、一言も会話を交わすことなく、
ただ、刻々と時間が過ぎていった。
「ファイン、そろそろ帰るぞ」
コンコンというノックが響き渡ったあと、シェイドのよく通る声がドア越しに聞こえた。
「あ……はーい」
少し戸惑ったあと中くらいの声で返事を返した。
そろそろおひさまの国に帰る時間なのだ。
……今までなら、「じゃあ帰ろう!」と二人一緒に帰ったのだが、
これからは違う。
レインは、宝石の国に残り、
ファインはおひさまの国、そしてゆくゆくは月の国に居を構えることになる。
ずっと一緒だった、2人は
これから、別々の道を歩むのだ。
「……レインッ」
なんだか、今まで押し込めていた寂しさが、津波のように襲ってきて、
思わず今にも泣き出しそうな声で、レインの名を呼んだ。
「……ファイン」
レインもファインと同じで、雨が降りそうな声で、ファインの名を呼ぶ。
どちらからとも無く手をとって……そして、どちらからともなく泣いた。
大声で泣き喚くのではなく、小さく、小さく泣いた。
そして、十分泣いた後、レインが口を開いた。
「ねえファイン、ずっと昔した約束、覚えてる?」
「……うん、覚えてるよ」
約束は数え切れないほどしたけれど、それがなんなのか、
一発で分かるのはふたごだからと思う。
それが、自慢であり、誇りだ。
「私たちは、他に好きな人ができても」
「離れていても」
「心はずっと」
「一緒だからね」
『……約束だよ』
二人はぎゅうっと手を取って、涙だらけの顔を精一杯笑顔にして、
そして離れた。
「じゃあね。レインまた今度、遊びにくるね!」
「ええ、楽しみにしてるわ」
そうして二人は別れる。
別々の道を進むために。
だけど、
いつだって、
どこにいたって、
二人はずっと、心は一緒。
二人はずっと、
『ふしぎ星のふたご姫』