「わーおいしそう!すっごいねーこれシェイドが作ったの?」
「……まあな。いつもそっちで用意してもらうのは悪いし」
「それにしてもよくできてるね、これ。今度からお茶菓子はシェイド担当でいいんじゃないかい?」
「……お前だってできるだろうが。次はお前がもってこい」
「お言葉だけど、いつもお茶を仕入れてくるのは僕だよ」
「………………」
爽やかにふく風の元、日の光をたっぷり浴びたテラスで、お茶会は行われていた。
ふしぎ星の一件があってからというもの、各国のプリンスプリンセスの交流は深まり、
月に1,2回の頻度でお日様の国にてお茶会が行われるようになった。
全員が集まるときもあれば、少人数で行われることもある自由な集まりで、
お茶を楽しんだり、話をしたり、時にはそのまま森を探索しにいったり、と
それぞれが自由に交流を楽しむ目的のものだった。
今回のように4人だけのときも結構頻繁にあって、
これはどう見ても、各国プリンセスプリンスの配慮に違いない。
いつもはそれが凄く嬉しくてたまらないことなのに、
レインにとって、今回ばかりは、気が重い要因にしかなりえなかった。
迎えの時や、準備、支度の際、いつもは率先して彼の隣に並ぼうとするのだけれど、
今回ばかりは、あえて隣にならないように注意をはらった。
なぜなら、彼の顔を見るたびに、今朝方見た夢を思い出してしまうから。
彼が好きなことは代わりの無いことだけれど、
今朝見た夢は現実的で、身も凍るように鮮明なもので、胸の内に与えた影響は計り知れなかった。


『どうして、そんなことが言えるんだい?』
『君は、僕のことを何一つ知らない。なのに、何故“好き”だと、いえるんだい?
 僕のことを知ろうともしなかったのに、どうして”好き”だといえるのかな』
『君が好きなのは、“僕”じゃないだろう?
 僕の形をした、『理想の王子様』だろう?
 本当の僕を見たら、君は必ず逃げ出すんだ。
 “私の王子様じゃない”って』
『この僕にもさっき言ったように”好き“だっていえる?
 同じような思いで接することができる?
 わがままで、自分のことしか考えないで、
 君が大好きなふしぎ星をめちゃくちゃにしようとした、僕を』


黒い彼が囁いた言葉が何度も何度もリピートされる。
今思い出しても、何一つ、その言葉に『違う』と言えることができない自分に、愕然とした。

最初は間違いなく、『憧れ』の恋だった。
優しくてダンスが上手で、かっこよくて、そんな彼に憧れて、
踊ってもらえた時はとても嬉しくて、舞い上がりそうだった。いや実際舞い上がった。
アイドルに憧れる、女の子そのもの。
そのアイドルが、何を考えているのかも考えようとせずに、
ただ、目の前にいる、自分の理想とした姿に思いを馳せていた。
やがて、その彼は闇に染まって。
闇の力で凶行を繰り返す彼に、当初は闇の力のせい、それだけと思っていた。
だから、

「誰かを苦しめてまで王様になろうなんて、
そんなのブライト様じゃない!!」

そんなことがいえた。
だけど。
今さらながら考えてみる。
私は、そういえるほど、彼を知っていたのだろうか、
知ろうと、していただろうか。
一方的に、自分のイメージだけで、彼を語ったのではないだろうか。
だから、夢の中の彼の言葉に『違う』といえなかったのではないだろうか。

なんて、ひどい。
なんて、ひどいんだろう。

私は私のことしか考えていなかったんだ。
彼のことなんて考えもしないで。
ただ、ただ、自分の思いを守ろうとしていたんだ。
それは今でもそうなんだろうか。
今彼を好きだという思いも、ニセモノなのではないだろうか。
それすらも、分からなくなってて、ただただ、えんえんと巡りつづける思考に、ハマっていくだけだった。

「……レイン」

声をかけられて、反射的に顔が上がる。
すると、今朝方見た夢と同じ顔と同じ瞳が目の前にあるのに気づいて、
優しげに嘲笑する夢の彼が思い出されて、一瞬固まってしまった。
「……なんだか、調子が悪いようだけど、大丈夫かい?」
しかし、夢でない現実の彼は、心配そうな顔をさらに不安げに曇らせて、気遣ってくれる。
「だ、大丈夫……。ちょっと……気分が……悪いだけで……」
視線をそらしつつ、やっとのことで出した声は自分でも驚くほど震えていた。
「……なんか、レイン朝変な夢見たみたいで、調子悪いみたいなんだ……。
 ね、ブライト、悪いけど、部屋に連れて行ってくれない?」
「…分かった。行こうか」
ファインの提案に、彼は戸惑いもせず、すぐにレインの手を取った。
本当は反駁したかったのだけれど、逆におかしいことを現すようなものなので、
レインはだまって、ひかれるままついていく。
いつもなら、嬉しいはずの流れが、今はやけに憂鬱だった。



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