「ねえ、そういうものなのよ
貴方が、傭兵の私達と触れ合って生きてきた中で
貴方なりの『好き』が培われていったように、
その、貴方が言う『一線をひかない好き』も貴方が望めば、
きっといつか分かるときがくる、そう思うわ」
ミロードはまだたゆたっているコーヒーの湯気を見て思いを馳せる。
かつて、傭兵団に来る前に関わっていた人々。
そして、傭兵団に来てから関わった人々。
様々な顔を思い浮かべながら。
「気持ちって教えてあげることはできないわ。
いえ、寧ろ何度教えたって分からないのよ。
人の心は千差万別。あなたは『一線を越えた好き』はみんな持っていて、
自分だけない、って思ってるかもしれないけれど、実際は違うわ。
もしかしたら、他の人は『一線を越えられない好き』を、
あなたがいう『一線を越えた好き』だと感じているのかもしれない。
要は、その人次第ってことね。
言葉にすると、『好き』って一言で終わるけれど、
実際は人によって様々にニュアンスが違ってくるものなのよ」
少し込み入った話をしすぎたのだろうか、
わからないなりになんとか理解しようとしている彼の姿を見て、
ちょっと、難しかったかしらね、とミロードは苦笑した。
「要は、あなたが望めば、きっとその『好き』も分かるってことよ。
過去のあなたが知らなかった『好き』という気持ちを、
今の貴方がもっているのはきっと、知らずに望んで、求めていたからだと思うのよね。
だからね、分からないって思うなら、
きっと分かるときが来るって思ってたほうがいいと、私は思うわ」
そういって、言葉を締めくくると、彼はまた何か考えているようだったが、
「……そうだね」
と精一杯の笑顔を見せてくれた。
「そうそう、その意気よ。精一杯『一線を越えない愛』ってものを追いかけていきなさい!」
今までの重い調子を晴らすがごとく、明るくいうと、彼から苦笑が漏れる。
「なんか……そういわれると、ちょっと……恥ずかしいけどね……」
「あら、早速分かったんじゃない。
『恥ずかしい』ってのもまたその『好き』の一つなんじゃない?」
「……そう、なのかな」
噛み締めるように呟く彼の顔には、まだ陰りが残っているのを窺がわせる。
解決するにはまだまだ時間が必要な問題だ。
すぐに答えがでる訳ではないけれど、そのことを彼が彼なりに考えていけば、
自然と、道は見つかっていくのだろう。
私の役目は、ここまで。
ミロードは潔く立ち上がった。
「さってと、そろそろ年長者は退散することにするわ。
こんなとこティティスに見つかったら何言われるかたまったもんじゃないしね」
わざと話題をふっかけてみると、ジョシュアはきょとんとした顔になった。
「……なんでそこにティティスが出てくるんだい?」
ああ、
ああもうこやつは。
こういう話題をひっかけてくるあたり、もしかしてひょっとすると、
気持ちの端にでも気づいたのかしら、なんて思ってたけど、
どうやら、まだまだだったようね。
「自分で考えなさい。あーあ、もう鈍いにもほどがあるってもんだわ。
お陰で冷やかしもできやしない」
意識した大声で話しながら出入り口へと向かうミロードの背中には、
え?え?と?マークを辺りにまきつかせたジョシュアの困惑した声が聞こえる。
ああ、全く今形容するならば、彼の感情はまだ眠っている花のようなものね。
それが開くまでに、どのくらいの時間がかかるかはわからないけれど。
彼の眠りを覚ませるのは、あのお転婆なエルフ娘か、それとも違う人物か。
ゆっくり観察させてもらうわよ?
「あ、店主さん、私のコーヒー代、
あそこで凄く怪訝な顔してるお兄さんにお願いね」
fin
あとがき
と、ゆーことで。
これでシメ、ということになりました。
んーちょっとミロードに喋らせすぎたかなぁという気もしないでもないんですが、
まあ、とりえあえずこんな感じで。
ミロードは『話す』人であり、話を『引き出す人』でもあるのかなぁと思うので、
結構こういう役回り多いですね。
ジョシュアの『好き』っていう気持ちは、大体こんな感じの認識かなぁと思います。
『好き』が、分からない。だから、ティティスの気持ちにも”気づかない”というか”気づけない”
そうなんだろうな、と思ったのと、私自身、その友達と恋人の境界線ってなにさ!!?
というところがあったのでそこら辺の気持ちを織り込んであります。
一生気づけないとかいっちゃダメですよそこの人。
因みにこの「今まだ眠る〜」は某『フルーツバスケッ●』の漫画のモノローグから
引用させていただきました。(誰も気づかないと思うけど……なんか……ね)
言葉の響が好きです。
……ということで、ここまで読んでくださった方がいらっしゃいましたら
心から!心からの感謝をささげます。
ありがとうございました!