「あの2人の一番の問題はね、『時間の流れ』だよ」
「時間の流れ?」
ハヅキはセイニーの言葉にまた首を傾げる。
うん、と頷くセイニーの表情はいつものように明るいのに、流れ出る言葉には隙がないほどの深さがある。
その言葉にまるで引き込まれるように、ハヅキはセイニーの言葉を聞く。
「そ、時間の流れ。エルフはね。私達人間より年齢の進行が遅いみたいなんだ。
ティティスも見た目は私達と変わらないけど、
昔ちょろっと聞いたところによると、初期の傭兵団のメンバーに会ったことがあるって言ってた」
「え、初期って……100年くらい前だよね……!?」
「うん。100年前だよね。その時ティティスは『小さかった頃』って言ってた。
だから詳しいところはわからないけど、大雑把に考えるなら、
最低でもエルフの1年は人間の10年に相当するんじゃないかって私は思うし……
そうゆーよーな話を聞いたこともあるよ。いつだったか忘れたけど」
「……そう……なんだ……」
自分の想像力が及ばないほどの途方もない話に、ハヅキは理解するのがやっと、というところだった。
ティティスは容姿的にはもちろん……言うと悪い気がするけれど、
性格的にも自分達の年齢とほとんど変わらないようだから、全然気にしなかった。
「……って、待って、それじゃあ、そうなるとティティスってバルドウィンより年とってるってこと!?」
難しい話に今だ混乱しきっている頭でハタと気づいた事実を思わず口にすると、
セイニーが一瞬驚いたような顔をして……そして、すぐさま崩れるように笑い始めた。
「あはははははっ!そっかーそこにくるんだー!!
いやーハヅキさいこーだよーっ!!」
「……そんなに笑わなくてもいいじゃないか……」
腹の底から笑っているセイニーの姿に、みるみるうちにまた顔が赤くなるのが分かる。
先ほどの自分の発言はそんなにおかしかったのかなあ?と自問自答していると、
上戸からやっと解き放たれたセイニーが息を切らしながらいった。
「いやーごめんごめん。まさかバルドウィンと比べるなんて思わなかったからさー。
……それで分かった?2人の問題がそこにある理由」
急に真面目な質問を投げかけられて、少々むくれた気分になっていたハヅキは必死に頭をフル回転させる。
えーっと、ティティスはバルドウィンより歳が上で……ティティスは僕達と同じ外見……
となると……
「……そっか……年齢の差……」
ぐるぐるとあれほど恐ろしくこんがらがっていた糸が、ピンと張ったように答えが出た。
そして、それが、どんなに重要なことかも。
自分が考えていた以上に深刻なソレは、どうやったら言葉にできるか分からなくて。
ハヅキが恐る恐るセイニーを見やると、それを察したように、セイニーが頷いた。
「そう。年齢の差、だね。
人間とエルフじゃ時間の経過が違う……歳の取り方が違うんだ。
もし、2人が両思いになったとしても、
否が応でもティティスはジョシュアが歳を取っていくのを見ていかなくちゃいけないし、
ジョシュアはティティスが若いままでいるのを見て行かなくちゃいけない。
それってどういう思いになるんだろうね。……私には、分からない」
列に並ぶティティスを見つめるセイニーの瞳は、全く揺るぎなく、凛としていたけれど、
そこにかすかな悲哀があるのをハヅキは感じた気がした。
すとん、と地面に腰を下ろす。汚れると洗濯が面倒だけれど、そうせずにはいられなかった。
「ねえ、セイニー」
「ん?」
呟いた言葉に、セイニーはすぐさま返事をしてくれた。多分、気をつかってくれているのだろう。
「二人はさ……上手く、いかないのかな」
率直な言葉に、セイニーは少し戸惑ったようだったが、静かに答えた。
「さあ、それは、当人同士の問題だから」
否定するでもない、肯定するでもない言葉は、大人の答えだった。
うん、きっとそれが正しい。他人がどうこう口を挟める問題じゃないのは分かっている。
分かって、いるのだ。……だけど。
「ティティスってさ、凄く分かりやすいんだよ」
誰にいうでもなく、ぽつりと言葉が漏れた。
「ジョシュアが落ち込んでる時、励まそうとして、やんわり追い返されて、
普段あんなに元気なのに、その時だけは凄くしおれちゃってさ。
……でも、諦めずにまた励ましに行くんだ。
そしたら次の日、ジョシュアは大抵笑ってるんだよ」
何を言いたいのか分からない言葉だ、と自分でも思った。
だけど、止められない。
「分かってるんだ。二人の問題だって。
いろんなことがあったって、結局二人次第なんだって。
……例え、二人が別々の道に行ったとしても、
それが二人の選んだ道なんだって。だけど」
今正にティティスが受付の人から花をもらうところをじっとハヅキは見つめた。
「あんな二人見てると、心から、思うんだ……願うんだ。
どうか、……二人が、一緒にいられますようにって」
わがままだって、自分でも思うけど、と呟いて、それから言う言葉も見つからなくて、
ハヅキは口をつぐんだ。
……ティティスがもうすぐこっちにやってくる。もう、この話はおしまいだ。
多分きっとセイニーには心の中で、また子供だって苦笑されるんだろうな、と思って、
そのまま無言で立ちあがると、
いつの間にかすぐ隣にいたセイニーが、
見たこともないような優しい顔で、ハヅキの顔を覗きこんでいた。
「ねえ、……私も、そう、思うよ」
上手くいかない要素はたくさんあることは分かってる。
それを望む自分は果てしなくお節介で、
結局ワガママなのだと思う。
だけど、
だけど、
心から願うのは、
不器用でじれったい二人が一緒にいる、シアワセ。
fin
2→3にかけて一人称がセイニーからハヅキに変わるのは仕様です。(真顔)
……というか書きなおす気力がないのさ。(ダメだこいつ)
今回書きたかったテーマ。
1「エルフと人間って両思いになるとしたら障害がありまくりじゃね?」
2「周囲の人から見た二人ってどうなんだろう」
とりあえず、あんなに見せ付けられていると(?)
あの二人上手くいってほしいなと同世代、しかも同年代くらいの友達ならそうおもうんじゃないかなとはおもうんですよね。
本人の自覚はないにしろ、ジョシュアも心開いてきてるなーってはなんとはなしに感じるとおもうので。
そこで、純粋に「うまくいってほしいな」とおもってるのがハヅキ。
「現実的に無理かもな」とおもっているのがセイニー。
セイニーってお気楽そうですが、旅をしていただけに結構現実的というイメージに私の中では収まってます。
『現実的には無理の可能性が高い』っておもってるけど、
ハヅキの純粋に応援してる姿を見て、ふと本当はそうだよね、応援したいよね、無理だとはおもうだけど、やっぱり本当は、
「そうだね、私も、そう思うよ」
と思った、というのが最後の
『私もそうおもうよ』の台詞の意図だったり。
……同時に私の気持ちだったりしま(ごめんなさorz)
いろいろ書きましたが、でも書いてて本人めちゃくちゃ楽しかったです。
ここまで見ていただいた方がいらっしゃいましたら、
ありがとうございました!