その2人がドアから出てくると、
待ち構えたといわんばかりに盛大な拍手が湧き起こった。
舞うのはライスシャワーと花吹雪。
勢いよく降り注がれる祝福に、純白のドレスの女性は微笑んだ。
心から願うのは
「うわー!すごいねー」
「ほんと!きれいー!」
歓声をあげるハヅキとティティスの後ろでセイニーも笑った。
「久々に見るけど、やっぱイイもんだねー」
オフが重なった、ということもあり、兼ねてから約束していた女3人と
イレギュラーで連れて来られた男1人で買出しに出かけたのは今日の朝。
お昼に外で食べた後、すぐ帰る算段だったのだが、
近くで結婚式があるということで、
「いきたいな」とぼやいたハヅキの言葉を強く押すようにティティスが「行こうよ!」といい、
かくして予定は未定という言葉通りに、女3人で結婚式観賞、という流れになった。
「やっぱドレスは純白が一番よねー」
うっとりと呟くティティスの横で、ハヅキも頷く。
「うん、やっぱ白だよね。僕の祖国では、『白無垢』っていう着物でするんだけど……
こういうの見ると、ドレスもいいなっておもうよ……」
日頃の豪快さが嘘のように、頬を染めているハヅキは『乙女』モードになっている。
こういうところをみると、やはり女の子だ。
どこにいっても、『結婚式』に憧れるのは、幸せを夢見る女性ならではだろうか。
(いや……まあ、全然憧れない人もいるんだけどさ)
誰とはいわず、自然と傭兵の同僚を思い出すと、思わず苦笑が漏れた。
セイニー自身も別に憧れというものはないのだが、見るのは結構好きである。
国や民族によって形式が違うが、そこにはどこか温かさがあるのは変わらない。
目を輝かせて様子を見つめる二人だったが、ふいにティティスの顔が曇った。
「ジョシュアも来ればよかったのに……」
『一緒に行こう』と誘ったはいいものの、
『荷物とか、持って出るの大変だろうから……3人で行ってきなよ。僕が見てるから』
などと言われて、それ以上何もいえずに来たのである。
荷物云々は確かに道理なのだけれど、行きたくないというのが本音だということは、すぐに分かる。
彼はこういう感情を隠すのは本当に下手で、
分かってしまうだけに、不満だったのだろう。特に、彼が好きなティティスには。
「ま、男の人ってのは全般的にそーゆーもんだよ」
「そうなの?」
「そ」
短く答えると、ふうんと微妙に納得いかなそうな声が帰ってきたが、
実質あまり気にしてないようで、祝福の渦中にある2人を見ると、また表情を輝かせた。
「ああ、でもほんと、綺麗だな……
僕もいつか、あんな風に……」
「そうそう、あたしもあんな風に……」
「お、てことは2人とも、そうしたい相手がいるのかなー?」
からかい半分で言うと、二人とも虚をつかれた表情になり……
一拍遅れて、ハヅキがブンブンと勢いよく首を振った。
「ち、ちがうよ!僕はいないよ!ティティスみたいに!」
「ちょ、なんであたし!?」
急に話を振られたティティスも焦りだす。
「だって、好きなんでしょ?」
「な、なな何が!?誰を!?」
「ゼフィールのこと」
「ちょ、そっちかい!ちっが!違うから!奴は論外だから!断じて違うから!
あたしが好きなのは……」
「うんうん、好きで結婚したいのは!?」
いつもなら否定するばかりのティティスが勢いで宣言しかけたからだろう。
先ほどの恥ずかしさの焦りも引きずってか、勢いよく相槌をうつハヅキの一言に、
ティティスは虚をつかれたように固まった。
「……ティティス?」
恥ずかしさのあまり固まったのだろうと思ったのだが、いつもと様子が違う。
セイニーの問いかけにも全く気づかぬように、
ティティスは、目にしていた二人から、ゆっくり下へと、視線を泳がせる。
「あたしが……好きなのは……」
半ば問いかけるように呟いた顔からは、表情が消えていた。
「ティティ……」
ただならぬ様子に、焦って名前を呼ぶハヅキの声にかぶさって、
カラーンコローンと式の終了を告げる鐘の音が鳴った。
「あ、終わったみたいね」
鐘の音が鳴り終わる頃には、ティティスはいつもどおりの明るい表情に戻っていた。
まるで、先ほどのことは気のせいだったとでもいうように。
「わ、ねえねえ、ブーケ、配られるみたいよ!
早く行かないとなくなっちゃう!」
ブーケは投げられることも多いが、
投げる際に殺到する女性の軍団の気迫が式のイメージを壊すこともあるため、
花嫁の意向で、ブーケにした花束を一本ずつ無償で配るというのが最近の流行である。
この花嫁もご多聞に漏れず、それを選んだらしい。
早くも列ができはじめているブーケ争奪の列にティティスは今しも飛んでいきたい気分なのだろう。
浮き足立っている足を見て、苦笑しつつ、手を横に振った。
「私はパスー。別にそっちのシアワセには当分あやかる予定ないしー」
「あ、ぼ、僕も今回はいいかな。ティティス行ってきなよ」
先ほどの印象が薄れていない証拠だろう。
ハヅキの手を振る手は若干ぎこちない。
しかし、ティティスは別段気にした様子もなく、そう?というと
じゃあ行ってくるわねと駆け足で列の方へと向かっていった。