でかでか★パニック
それはよく晴れた朝のことで、別段代わり映えもしない1日が始まる……はずだった。
突然、全員が集まっている食堂に、ジュランの声が響き渡るまでは。
「はーいみなさーんちゅうもーく」
珍しく張り上げたジュランの声とパンパンという手を叩く声に、
食堂中のみんな……つまり、傭兵が振り向いた。
「なに?なんかあるの?」
「貴方、なんか薬品コンテストのために篭ってるんじゃなかった?」
それぞれに疑問を口にする中、先ほど食堂に来たばかりのハヅキも大きな目を丸くする。
何かあったのかな……も、もしかして実験の被験者ボシュウとか……だったら嫌だなぁ……
瞬時に駆け巡った嫌な想像に頭をぶんぶんと振って霧散させる。
そんなギャラリーの反応なぞ全く気にすることなく、
下に青いクマを作った目を細めて、ジュランはにっこりと微笑んだ。
「今日は皆さんに紹介したい人がいますー。
はい、入ってきていいですよ」
丁度ドアのまん前に立っていたジュランが、そのまま横に移動して隙間をつくると、
隣にいる何かがごそりと動いた気がした。
「まあまあ、恥ずかしがらずに出てください。はい!」
すると、そのままジュランの手に押されたらしい人物が、ぽーんと勢いをつけて
ドアの前へと躍り出た。
その出てきた人物に、一瞬食堂中の傭兵が目を見張った。
金髪のストレートに伸ばした柔らかな髪、琥珀色の瞳。整った顔立ち…
「……綺麗な子ねぇ……」
思わず漏らしたミロードの声が、全員の気持ちを代弁しているかのようだった。
おどおどとしたその態度とは裏腹に、人をひきつけるその姿にはただただ目を丸くするしかない。
「はーい、そこで問題でーす。
この子はみなさんがよーく知っている方なんですよー。
誰だか分かりますか?」
ジュランの一声に、食堂中がさざめく。
「えージュランの親戚の子―?」
「ブッブー。残念。ハズレです。親戚ってみなさん知らないでしょうに」
「あ、じゃあジュランの隠し子とか!」
「……私にはこんな大きい子いません。
だから、みなさん良く知っている方なんですってば」
他にもやれ実験中の助手だの、ジュランの新しい彼女だの、
最近入ったメイドだの好き勝手な憶測が飛び交ったが、
全部ことごとくはずれの烙印を押されてしまった。
ハヅキも誰だか分からない。
いや……本当は、どこかで見たことがあるような、ひっかかりは感じているのだが……
思い出せないのだ。
「うーん。仕方ありませんねぇ……
そうですね。じゃあ最大のヒントを」
ジュランはその子に何か耳打ちをする。
すると、その子は一歩前に出て、ペコリとお辞儀をして……
「みなさん……こんにちは」
ハスキーな声で、挨拶を、した。
………………
しばらく訪れる、静寂。
「……もしかして、この子……男の……子……?」
「そうですよ。ってか私女の子なんて一言も言ってませんよ?」
「いや……でも男の子って言ったらますます……」
訪れる、疑惑と困惑と好奇の静寂。
誰もがその人物の正体に気づかない中、
ハヅキは、分かってしまった。
いや分かった、というか、ひらめいたのだ。
男の子。金髪。ハスキーな声に残る幼さ。
そしてなにより……今、この場に存在しない、みんながよく知っている人物……
「……もしかして……キャ……ス?」
恐る恐る呟くと、ジュランの瞳がパアッと輝いて間髪居れずに拍手が響いた。
「ピンポーン正解です!」
…………嵐の前の、静寂。
「えええええええええええええええええ!?」
万人入り乱れた驚愕の叫びは。遥かリトルエデンの村落まで聞こえたとか。