ブライトは息を吸うと、視線をまっすぐシェイドに向ける。
シェイドも、ブライトの並々ならぬ態度に、つい、と視線を向けた。

「シェイド・・・その・・・今更・・・と思うかもしれないけど・・・
僕が闇に染まった時・・・いろいろと君たち・・・いや、君に迷惑をかけることをして・・・ごめん。」
思いもかけない告白に、シェイドが今度こそ本当に驚いて目を見開いていた。
ブライトは視線を逸らしたい衝動に駆られつつも、決して負けまいと瞳に力を込める。
「考えてみると、僕は、君が羨ましかったんだと・・・思うんだ。
人に・・・信用されて、一人でも恐れず立派に行動できて。
その羨ましい・・・妬ましい思い・・・それに漬け込まれて僕は闇に染まってしまったと、今では分かるんだ。」
胸の奥から、何か熱いものがこみあげてくる。それでも構わずブライトは話し続ける。
弱い自分に押し流されないように。
「人は、闇に操られていたからしょうがない、といってくれるけど、
でも、漬け込まれる原因を持っていたのは、他でもない、僕自身だったんだ。
エクリプス・・・いや、シェイド、君は僕にそれを気づかせようと叱咤してくれたね。
正直、その時は疎ましく思っただけだったけれど、今は、その時の君の言葉が、
どんなに大切だったか分かるよ。
・・・今更いっても遅いかも知れないけど・・・あの時はたくさん迷惑をかけてごめん・・・。そして、ありがとう・・・。」
そういい終わると、ブライトは頭を下げた。

一気に言葉を放出し終わったのと、感情の高揚のせいで息が荒い。
でも、今のブライトには言わなければいけないことを全て言い終わった満足感が心を満たしていた。
これを聞いて、シェイドはどう感じているのだろうか、うろたえているのだろうか、それとも平然としているのだろうか、
自分から頭をあげてシェイドを見るには、少し勇気が足りなくて。
ブライトは頭を下げたまま、シェイドがなんと反応するかを待っていた。
しばらくの沈黙の後、ふう、というため息がその場に響いた。
「・・・なんというか・・・お前ってほんと・・・羨ましいほど素直なんだな。」
苦笑が混ざった響きに、ブライトはゆっくりと頭をあげ、シェイドを見る、
するとそこには、困ったような笑みを浮かべたシェイドがいた。

「オレがもしお前と同じ状況だったとしても、そんなに素直に謝るなんてことできないだろうと思う。
・・・正直いうと、オレも、お前が羨ましかったんだ。
オレには、そんな風に、素直に謝ったり、笑ったりすることは出来ないから・・・。」
シェイドは、そして表情にふと悲しそうな色を浮かべると下を向いた。
「こんなことをいうと、オレという人間はなんて冷酷なやつだと思うが・・・
・・・実際、おまえが闇に魅入られたて行動していた時・・・オレは正直、他に味わったことのない
満足感を得ていたんだ。
人に認められ、尊重され、頼られる・・・という・・・な。
何でもないことかもしれない。けれど、今まで疑われてばかりのオレにとってはとても・・・とても満足することだった。
当時は全然考えたこともなかったが、もしかしたら、おまえが闇に染まってよかったと心の奥底では思っていたのかもしれない・・・」
そう話すシェイドの眼差しは、月の国のプリンス、シェイドとしてではなく、
エクリプスの暗澹たる輝きを放っていた。
「結局、闇に魅入られていたのは、オレも同じだったかもしれない。
最もらしいことをいって、その実、お前の気持ちを考えることもしなかったんだからな。
・・・だから、今までのことは気にしなくていい。寧ろオレの方こそ・・・悪かった」

一段と落とされた音の中に響く声は真摯な色を帯びていて。
ブライトは思わずシェイドを見つめた。
羨ましいと思っていた相手から、逆に羨ましがられているとは思いもしなかったことで
なんといったらよいのか分からなかった。
ただ、こんな自分も捨てたものではないということが、実感としてじわじわと表れてくるのが分かり、
少し・・・ほんの一かけらでも・・・勇気が出てきた。
「・・・君にそういわれるとは、思ってなかったよ・・・」
緊張していた空気から開放されたように、ふわりと微笑んだブライトは思ったことを素直に口にした。
すると、苦笑いを含み、どこかいたずらっぽい表情をしてシェイドがいった。
「どういわれると思ってたんだ?」
「・・・うーん・・・苦虫噛み潰したような顔するか・・・無視するかなって・・・」
「・・・オレの印象ってそんな冷たいものなのかよ」
「今は、ね。でもこれからは変わっていくんだと思うよ」
そういいつつ、ブライトはまたにこりと表情を綻ばせた。


「僕の君に対する印象も・・・君の僕に対する印象も、ね」


人にどう見られるか、これからの自分が悪い過去の自分と同等に見られることがあるというのは否めないだろう。
しかし、シェイドといい、自分といい、結果的にどうみられるか、どう見られていくのは、
これからの自分自身にかかってくるのであって、決して固定され、決定されたものではないのだ。
人から、これからどう見られるのか。
怯えるのではなく、新たな自分を発見する機会だと思って楽しんで生きたい、ブライトはふと、そんなことを思った。


「・・・そうだな」
ブライトの思いを見透かしたかのような、シェイドの肯定の言葉がその場に静かに響き、
長らく暗雲のたちこめていた二人の関係さえも、すっきりとした青空に変えてくれたようだった。
青空の下での新たな2人のスタート地点、
これからどのようにしてお互いを認め合っていくのか・・・
見当も着かないながらも2人は確かに感じていた。
みずみずしく柔らかな、新たな友情の芽吹きを。



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あとがき

ずっと温めていた(考えていた)シェイドとブライトの関係修復の話。
もともとは一つでまとまった小説だったのですが、テーマや動き的に三つに区切れていたので分割しました。

舞台としては、最終話パーティの前、という感じです。(分かりにくいかもですが;)
あのアニメのブライトとシェイドのあまりにも早すぎる、
はっきりいっちゃうとなおざりにされた友情シーンがどうにも納得いかなくて、自分なりに補完してみました(爆)
今回の話はある面、以前特設ページにおいていた46話の補完、「日なたの花」の完成バージョンという感じですね・・・。

今回は2人の話がメインなのですが、それと同時にブライトの闇化に対する決着もつけなければ
2人は本当の意味で和解できないなと思って、そこらへん話も盛り込んでいたりします
「二つのつぼみ」という題は、ブライトもシェイドもお互い未成熟で相手を見ることも自分を見ることもまだまだ発展性があるという意味と、
これからのふたりの関係も、花が開くように成長していってほしいという願いをこめてつけました。

まあ何にしても、2人には色眼鏡なし、本当の意味での関係作りをしてもらいたいなという願いが
それはもう怨念のように込められているのは事実です(を)
2人にはよきライバルでいてほしいですからね・・・。

・・・ではでは、このような駄文でもここまで拝読していただいてありがとうございましたv


背景は創天さんの写真を加工して使用させていただきました。





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