二つのつぼみ
ばしゅう!
一際大きな空気音がしたかと思うと、飛行船はゆっくりゆっくりとペースを保ち、
やがて金属と金属がぶつかり合う振動が伝わった後、船着場に固定された。
しっかり固定されたことを確認して、ブライトはふうと安堵の息をつくと、
目の前にある緑色の四角いボタンを軽く押して、閉じていたドアを開け、地面へと1人、降り立った。
「久しぶりだな・・・ここも。」
ドアがまた閉じられるのを確認した後、あらためて優しい色で包まれている城を見て、
感慨深そうにブライトはポツリと呟いた。
ふしぎ星が闇の力から救われて、各国のごたごたが収まって暫くしてからのこと。
ふしぎ星が救われたこと、そして、そのふしぎ星を救った2人のプリンセスをお祝いしよう
ということで、おひさまの国でパーティが開かれることになり、ふしぎ星中の国に招待状が配られた。
もちろん、ブライトのいる宝石の国にも招待状が送られてきたのはいうまでもない。
事件に深く関わり、操られていたとはいえ自分自身の手で闇の力を増幅させてしまったブライトとしては、
このパーティに出る資格なんてないと心に誓っていたのだが、
アルテッサやアウラーの説得と、なにより、その招待状に添えられていた、
ふたごのプリンセスによる、「絶対きてね」のメッセージに力づけられ、決心してこの場に立っていた。
「きれい、だよね。」
もう一度空と、そしてそれに溶け込むように立っている、かつては闇色にそまった城を見て、
満足そうにもう一度呟くと、ブライトは目の前の城に向かって歩き出した。
「こちらで少々お待ち下さい」
そう言われて通された待合室は広すぎず、狭すぎず、といった感じの丁度いい広さで、
真ん中に四角いテーブル、そして椅子が整然と並べてあった。
テーブルにはところどころにクッキーやティーポットが置いてあり、待合室に相応しい配慮が施されている。
ブライトはその端の一つの椅子をひいて丁寧に座ると、先ほど到着を知らせる前の驚いたメイドの顔を思い出して、1人苦笑した。
「やっぱり、三時間前なんて早すぎたかな。」
一般人はさておき、王族ならば、普段のパーティでは一時間、もしくは一時間半前につくのが普通だろう。
現に、家族みんなで行こうとアルテッサにいわれた時間は、一時間前に丁度着くくらいの時間だった。
しかし、ブライトはあえて一人で三時間も前に付くことを選んだのだ。
それは、闇に魅入られてから一時過ごしていたこの城、
そして自分自身の中にあるわだかまりと向き合わなければならないという彼なりの覚悟だった。
闇から開放されてから、自分は本当の意味で自由になったとは感じていた。
でも、それから絶えず恐れとして付きまとってくるのは、
昔、しでかしたことを見ていた他人の、自分への評価だった。
闇に魅入られていたのだからしょうがない、と人は表面上では赦してくれるかもしれない。
でも、たとえ赦されたとしても、自分の行いは絶えずその人の中に現実としてあり、
今の自分をみていたとしても、過去の自分がその人の中では絶えずチラつくことになるだろう。
それはある面仕方の無いことなのだけれど、ブライトはそれがたまらなく不安だったのだ。
いつか、自分が闇に染まった頃の過去の自分と同じように見られはしないかと。
過去の自分のように見られる行動をしなければいいのは分かっている。
でも、闇を知らなかった以前と明らかに変わっている自分がいるのも知っていて。
そのギャップが相手に恐れを生ませるのではないか、猜疑心を生ませるのではないか、と、
そして・・・自分を知っている人が、離れていくのではないか、と不安だった。
「こんなこと、思っていても仕方ないんだけどね・・・」
我ながら暗い考えだとブライトは苦笑する。
闇の支配から戻ってからというもの、どうも暗い思考になりがちなのはいただけない。
考えを落ち着かせようと腰を上げて、ティーポットに手をかけた、その時、
カチャリ
という一種独特の木製のドアが開かれる音がしたかとおもうと、中からメイドが入ってきた。
「こちらで少々お待ち下さい」
ブライトの時とまったく同じ動作で一礼するメイドの様子から、誰かが到着したのだと気づく。
こんな早くに一体誰が・・・と浮かしていた腰を再び椅子に戻し、誰なのか見定めようとしたブライトの前に姿を現したのは・・・
紫色の髪に宇宙を思わせる青い瞳をして、月の穏やかな黄色の服に身を包んだ・・・
月の国の王子、シェイドだった。
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