彼は、まっすぐな瞳のまま、続ける。
「……あの『僕』は、“ブラッククリスタルの影響で作られたものだった。”
 僕自身そう思ってたし、みんなもそう思ってくれてた。
 ……だけどね。ずっとずっと、年が経っていくごとにそれは果たして本当なんだろうかって
 疑問がどんどん、心の中で大きくなっていったんだ。
 確かに、闇の力に利用されたという面はあると思う。
 ……だけど、それを望んだのは……闇の力がほしいと、思ったのは、
 他でも無い、『僕』だったんだ」
言いながら、彼はふと、遠い眼差しをした。
まるで昔を見るような目。
「僕はまるで絵に描いた様な『王子様』だった。
 尊敬され、敬われることが当然で、当たり前だった。
 ……だけど、闇の力を欲していた大臣が起こした一連の行動は、
 僕の『当たり前』をあっさり崩してしまったんだ。
 僕は何もできないことを痛感させられた。
 今までしてきたことって何だったんだろうって、それすらも、分からなく、なった。」
そこで一息つくと、彼は悲しそうに顔をゆがめた。
「その時に声が聞こえたんだ。
『お前なくしてこの星は幸せになれない。お前こそが王だ』って。
 僕はその声を……信じた。
 この星にとって、『僕』は必要なんだといいたかった。
 『何もできない奴』なんかじゃない。そう知らしめる力がほしかったんだ。
 ……そして、僕は選んだ。
 星より、自分自身のちっぽけなプライドを守るために、闇の力を使うことを」
「………………」
目の前でとつとつと語る彼は、いつもの穏やかな態度とまるで違った表情を見せていた。
目を背けたいものに、必死に目を向けようと頑張っている姿。
それには鋭い痛々しさが伴っていて。
もうやめて、そんな表情を貴方がしなくてもいいのにと、何度も思ったし、言いたかった。
だけど、レインは言わなかった。
ただ、黙って話を聞いていた。
彼との、そして自分の思いと向き合える機会のように思えたから。
彼は少し間を置いて、また静かに話し出す。
「まぎれもない、僕自身の選択によって、産まれた『僕』。
 それが、あの『僕』だったと今では思うよ。
 ……正直、それは認めたくないし、
 そうじゃないって、こう言ってる今でも、否定している自分がいることも確かだ。
 ……だけど、逃げてばかりじゃ、何も解決できないから」
そういうと、彼はヒタリとこちらを見つめた。
「だから、今君に、『僕』のことを謝らせてほしい。
 闇に染まった僕も、昔の無知な僕も、今ここにいる『僕』の、謝罪として」
いったかと思うと、彼のマントがふわりとゆれ……
その場にひざまずいた体勢になり、深々と頭が下がった。

「……何を言っても、言い訳にしかならないのは承知の上です。
 でも、それでも謝らせてください。
 ……僕はとても自分勝手でした。
 ふしぎ星を守るといいつつ、実際は自分を如何にして認めさせるかが大事だったからです。
 その行動によって、貴方を数え切れないくらい、傷つけてしまいました。
 心から、深く、お詫びします。……ごめんなさい。
 謝っても、貴方の傷は治らないと思います。
 だけど、僕にできることがあればいってください。
 僕は僕自身で精一杯そのことに応えようと、思います。
 許していただかなくても、構いません。
 この僕の言葉が、少しでも貴方の心に、留まればいいと、そう今は思います。
 最後に、この場で僕の謝罪を聞いてくださって、……ありがとう。感謝します。」

言葉を紡ぐという、その表現どおりに、
丁寧に、丁寧に、長い言葉を彼は紡いだ。
終わると同時に、彼は下げていた頭を更に下げた。

胸を、つかれた。

ずっとずっと自分のことばかりしか考えていなかった私は、
今、そのことに気づいたばかりだというのに、
この人は、ずっと、ずっと前にそのことを知って、考えていたんだ。
そして悔やんでいたんだ。
私の知らないところで、一人でずっと。
でも悩みにはまり続けるのではなく、なんとか懸命に、前を見ようと努力している。
ああ、なんて。
なんて。
胸の中に、温かい感情がまるで奔流のようにあふれ出す。


そうだ。答えはこんなに近くにあったんだ。


「顔を、あげてください」
あふれ出す思いが涙に変わらぬように、
懸命に自分を震い立たせて、毅然とした声で言った。
彼が、顔を上げる。
「私は、あなたのことを許すことはできません」
レインは徐に膝をついて……そして、彼と視線が合わさるように、同じ姿勢になった。
「だって……許す資格がないもの」
そして、彼の瞳をじっと見つめた。視線が重なるように、自分から、見つめた。

「私も、貴方に謝らないといけません。
 私は貴方以上に、自分勝手でした。
 貴方の考えや、思っていること、悩みなんて知ろうともせずに、
 ただ決めつけ、自分の願望を押し付けて、貴方に対処していました。
 貴方は、どれくらい、傷ついていたでしょうか。
 そのことを知ろうとしなかった私は本当に、情けないです。 
 ……ごめんなさい。
 ……だから、これからは、貴方のことをもっと知りたいと思います。
 貴方が何を考えて、何を見て、感じているのか……知りたいです。
 今まで知ろうとしなかった分まで知っていきたいの。
 ……それじゃダメかしら?」

そういって、じっと彼の顔を見ると、
彼はあからさまに戸惑っていた。
きっと想定も予想もしていなかった言葉を言われたからだろう。
何を言えばいいのか分からなくなって、完全に固まっている彼に、
ふと笑みがこぼれた。

「だから、要するに……おあいこ。ってこと」

そして、固まっている彼の手にそっと触れる。
「そして、私はブライト様と……もっともっと仲良くなりたいって思ってます。
 今まで以上にお話できたらいいなって、そう思ってます。
 それが、私の返事……ダメかしら?」
幼い子供に言い聞かせるように、ゆっくりとそういうと、
彼は得心したように、ふるふると首を振った。
「ダメ、じゃないよ……。寧ろ、嬉しい。
 ごめん。全然そんなこと言われるなんて思って無かったから……。
 びっくり、したんだ」
「あら、じゃあどういうと思ってました?」
「それは……」
彼は少し言いよどんだけれど、すぐに応えてくれた。
「距離を置かれるかなって、思ってた。
 それか、泣かれるかもしれないって思ってた」
真剣に答える彼の言葉に、残念でしたね、とレインは微笑んだ。
「私はそんなことで退くくような女の子じゃなかったってことです。
 距離を置かれるって思われてるなら、これからぐんぐん近づいていきます。
 泣くくらいなら、笑って貴方の側にいるわ。
 ……覚悟しててね?」
そういうと、戸惑う彼の手をとって、レインは今来た方向へと向きを変えて歩き出した。


……答えを見つけた。
ずっと近くにあった答え。
今なら、夢の中にいた、あなたにも、答えることができる。

……私は貴方が、今この瞬間、好きです。
真面目で、器用なのに、そのくせ肝心なところでは不器用で、……でも、誠実な貴方が。
これから、今まで知ろうとしなかった分まで、貴方のことを知ろうと思うわ。
貴方が私を好きでなくても、私はずっと好きでいます。
貴方が一生私を好きになることはなくても、
私は貴方を一生好きでいたいです。
それが、私の思い。
そして、私の……貴方への答え。


fin
and
To Be Continued……


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