Answer
そこは、白い、白い空間で、やさしい白がどこまでもどこまでも続いていた。
そこには、私と、私のすきなひと。
私は、好きな人を目の前に、震えていた。
目の前には、いつもの優しげな笑顔。
その前で、私は一番、いいたいことを言おうとしていた。
言おうと、決心していた。
体が熱い。全身が寒くもないのに震えていた。
一度口を開いて、また閉じてを数回繰り返し……
そして、俯いて……顔をあげた。
彼の穏やかな赤い瞳とぶつかる。
今なら言える、いえ、今しかいえない。
そう思って、思いのままに、口を開いた。
『私、ブライト様のことが好きです!』
ついに、言えた。言う事が、できた。
胸につまっていた何かが、ほうっと息になって出て行って、軽くなった。
やっということができた嬉しさと
彼はどういう反応を返すのだろうかという不安で、おそるおそる彼を見ると、
彼は、先ほどと変わらない穏やかな顔に、にっこりと笑みをたたえて……
『……どうして?』
笑顔のまま、そういった。
『どうして、そんなことが言えるんだい?』
口調は凪のような穏やかさをもっていたけれど、
意図は違った。
意図は、荒れ狂う、攻め立てる、荒波だった。
『君は、僕のことを何一つ知らない。なのに、何故“好き”だと、いえるんだい?
僕のことを知ろうともしなかったのに、どうして”好き”だといえるのかな』
そして、その優しい笑顔のまま、ゆっくりと近づいてくる彼の姿に、
恐ろしさで息がつまった。
『君が好きなのは、“僕”じゃないだろう?
僕の形をした、『理想の王子様』だろう?
本当の僕を見たら、君は必ず逃げ出すんだ。
“私の王子様じゃない”って』
そういうと、彼は優しく優しく髪をなでた。
本来ならば嬉しいはずの行為も、今は殴られるような痛さにしか感じない。
でも、否定したい気持ちは強くて、
ありったけの思いををふりしぼってふりしぼって、言葉に乗せようとつくすが、ぱくぱくと口が動くのみ。
そんな仕草を見て、彼はくすりと笑った。
『違うって、言いたいのかな?……じゃあさ』
そういうと、彼は着ていたマントを翻した。
バサッっという布ずれの音が盛大にはためくと、今まで白かった空間が闇へと変わった。
そして、彼の服も。
かつて、闇に染まった時と同じような、深淵な黒をまとっていた。
『この僕にもさっき言ったように”好き“だっていえる?
同じような思いで接することができる?
わがままで、自分のことしか考えないで、
君が大好きなふしぎ星をめちゃくちゃにしようとした、僕を』
優しく、耳元で囁かれる言葉は、毒のように、心を侵食する。
心の中で、最初に言った言葉とはまるで正反対の思いが浮かぶ。
すると、それを見透かしたように、彼が笑った。
穏やかさは微塵も無い、嘲笑する笑みだった。
『やっぱりね。君は自分のことしか考えていない。
僕のことを知ろうともしていない。
君は僕を好きじゃないんだ。
……そして、僕も。
僕は君を一生好きになることはないよ。
一生……ね』
黒いマントがはためいて、彼はすぐさま背を向けた。
黒い背中が、遠のいていく。
待ってともいえず、違うわとも言えず、ただ、呆然と立ち尽くす中、
ほろりと、何かが頬を伝った気配がした。
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