第一章 事件
             
 執筆者:たふあ るるく




「…っと…これで全部かな?」

抜けるような雲一つ無い青空と、
ガヤガヤとした喧騒がさざめく昼時の街中にジョシュアとティティスはいた。
よいしょ、と荷物を整えるジョシュアの一言に、
ティティスは小さい紙切れにさっと目を通すと、軽く頷く。
「うん、これで全部よ。ありがと、ジョシュア。でも大丈夫?
重く・・・ない?あたしがもうちょっと持とうか?」
心配そうに見つめるティティスの視線の先には、
右手にはサンドバック(しかも特注品)、左手には紙袋6つを抱え、
体半分が荷物に隠れている凄まじいジョシュアの姿があった。
「うん。重くないといえば、嘘になるけど・・・
ティティスだって、もう十分に持ってるんだから、
それ以上持たせちゃ悪いよ。大丈夫。これくらいなら平気だから。」
「そう・・・?ごめんね、ジョシュア」
ジョシュアに尚も申し訳なさそうな視線を送るティティスの両手にも、
実質かなりの紙袋が握られている。
折角、同じ休日だからということでセイニーに手伝ってもらい、
思い切ってジョシュアを買い物に誘ったのに、
こんなに荷物があっては、元も子も孫だってひ孫だってある訳が無い。
がさがさと歩く度に揺れる紙袋を恨めしそうに見つめ、ティティスは盛大なため息をついた。
「まったく・・・出かけるっていったら、みんなして買うもの頼んでくるんだから・・・
おかげで、町中のお店、駆けずり回らなきゃならなかったじゃない!」
「仕方ないよ・・・最近、なんだかんだいって任務が多くなっているみたいだから・・・
買出しにいく時間もあんまりないしね。」
「そりゃー・・・そうだけど・・・」

黒王を倒し、一時激減した傭兵団の任務数は、この所徐々に増加傾向にある。
連続して任務を受け持つことが多い者は日々の生活品の供給まで手が回らないため、
そこでたまに町に出て行く用事がある者に買出しの注文が集中するのだ。
それはしょうがないことであって、別段悪いことではない。
しかし、しかしだ。やはり、なんにでも限度っていうものがあるのだ。

(・・・こんなに荷物があったら、二人っきりっていう意味が無いのよね・・・)

自分の両手にある紙袋と、大量の荷物を体に囲われているジョシュアの姿を交互に見比べ、
ティティスは大きく嘆息した。
「?どうかした?」
ティティスの心の嘆きが聞こえたのかどうかは分からないが、
急に口を噤んだティティスを不審に思ったらしい
ジョシュアが心配そうに訊ねてくる。ティティスは今までの思いを振り払うように首を振った。
「うっううん、なんでもないの。そっそれよりジョシュア、
そろそろお昼の時間だし、一休みしていかない?
あ、ホラ、あそこのお店なんて良さそうよ」
バツの悪い思いを押し隠すようにティティスは話題を変えるべく、向かい側にある店を指差した。
そこは、木造の建物から茶色い床が突き出し、テラスとなっており、
床の上には木材で作られた小さめのテーブルと椅子が置いてあって、
広々とした空間が広がっていた。
「うん。そうだね。あそこならこの荷物たちを置いても大丈夫そうだ。」
「じゃ、そうと決まれば善は急げよ!ホラ。早く早く!」
あそこに入れば、今の状況を打破できるはず。
そう確信したティティスは一秒でも早く店に到達できるように
すんなりと誘いに応じたジョシュアの背中を押して急かした。


「うーんっ!!開放感〜!!」
店に入って荷物を降ろし、軽く伸びをすると、ティティスは嬉しそうに叫んだ。
先ほどのもやもやした気持ちは、上手くいかない現実のせいだけでなく、
単純に荷物もちで疲れたという理由もあったようだ。
その証拠に、下にばかり向いていた手のひらを、爽やかに色づいた青色の空に伸ばしただけで
体中に暖かな力が湧いてきたからだ。
ティティスはもう一度、植物のようにうんと大きく伸びをした。
「なんだか凄く気持ちよさそうだね」
先ほどまで大量の荷物の配置に苦心していたジョシュアがティティスの向かい側に座る。
ようやく重い荷物から開放されたからか、表情は晴れやかだった。
「こうやってると、下ばっかり向いてた気持ちも上に上がって前向きになれる気がするの」
「へぇ、確かにそうかもしれないね」
ティティスにつられてジョシュアも空を見上げる。
晴れ渡った空は見ているものの心の中にも入ってきて、
疲れた心も、穏やかな気持ちで満たしてくれるようだった。
「今日は、空が綺麗ですよね。とても、清々しい色をしている。」
呆けたように空を見つめていた二人の横から、ふいに聞き慣れない声が聞こえてきた。
反射的に声のした方に顔を向けると、
エプロン代わりの前掛けをつけた白髪の老人が銀色のお盆を持ってにこにこと佇んでいた。
「つい最近まで、黒々とした色が混ざっていた空の色が、
またこんな風に綺麗な色を浮かべるようになったんですよ。いやはや、嬉しいことです。」
「そうなんですか・・・」
穏やかに佇む老人は、感慨深そうな瞳を空に向けていった。
その表情は本当に幸福そうで、思わず相槌をうってしまうほどに、優しさに満ち溢れていた。
老人はそれからつと空から目を離すと、その温かな目を二人に向けた。
「これも、日々私達のために戦ってくださる傭兵の方たちのお陰です。
本当に感謝していますよ、貴方達には」
「え・・・?・・・えと・・・」
突然話題を自分達に振られた二人は、老人の言葉に、少々面食らって焦う。
すると、老人は、これは失敬と軽く頭を下げた。
「あ、すみませんねぇ、突然話を振ってしまって。
いえね、貴方方のお顔はよく拝見しますから、一目で傭兵さんだと分かったんですよ。
でも、私服でしたから、休暇でここに来られてるんだと思いまして。
して、今日はお二人でデートですかな?」
穏やかな笑顔を崩さずに、老人は二人の顔を交互に眺める。
「いっいえ・・・そんなんじゃ・・・」
みるみる真っ赤になって口をパクパクさせているティティスの代わりに、
ジョシュアが苦笑いを含みつつ、やんわりと語尾を濁す。
そんな二人の様子を見て、老人は満足そうな笑みを浮かべた。
「ほっほ、若いっていいですなぁ、じゃあ、ゆっくりしていってください。
あ、あとこれ、サービスです。お代は要りませんよ。」
持っていた銀の盆から飲み物を二つテーブルに置く。
拍子に、コップに盛られた氷がカランと涼しげな音をたてた。
「えっそっそんな・・・悪いですよ」
「そうです、そんなにしてもらっては・・・」
二人はすぐさま断ろうとするが、老人は静かに首を振った。
「いえいえ、是非受け取って下さい。私がこうやって店続けていけるのも、
貴方達傭兵がこの国を、即ち私達をたち守ってくれているからですからね。
それに比べれば飲み物の一つや二つ小さいもんです。
あなたたちのためにするというのではなく、ここは私に花を持たせると思ってもらって下さいな。」
そうまで言われれば、好意を受けないのも悪い気がする。
二人は素直にお礼をいうと、老人の側に置いてあったコップをそれぞれ自分の前に置いた。
それを見届けて老人はまたにっこり笑うと、
「じゃあごゆっくり、休息していってください」
というと、丸太でできた木造の店の中に再び戻っていった。

老人が戻っていく後姿を瞳に移し、ティティスは感嘆の息を漏らす。
「はー・・・あんな人もいるのねー・・・他の人は傭兵っていうと、戦いの象徴だからって
あまりいい顔をしない方が多いのに・・・」
「うん。そうだね。僕達のこと、あんな風に思ってくれてる人がいるんだってことが分かると、
素直に嬉しくなるよ。」
温かい気持ちに触れると、また明日も頑張ろうという気持ちになる。
単純で簡単なことのようだが、受ける側にとってはとても大きいことなのだ。
優しく、温かな老人の気持ちに感謝していると、
突然、通りの方からすっとんきょうな声が聞こえた。

「にゃん!?ジョシュアとティティス!どうしてここにいるにゃん!?」

見ると、赤い民族風の独特な衣装に身を包み、つばの大きな帽子を被ったケットシーが、
テラスと通りの道を分けている木製の柵の間から目をまんまるくしてこちらを見ている。
『キャス!?』
予想外の遭遇に思わず大声をあげてしまう二人。
驚きを隠せないという風にティティスは尚も言葉を続けた。
「ちょ・・・っそれはこっちのセリフよ!なんであんたがここにいるの!?
今日は任務じゃなかったっけ!?」
「にゃん、そのハズだったんだけど、
団長が急遽お使いにいってくれっていうからおつかいしてきたのにゃん。
遊びに来たみたいなティティスとは違うにゃん!」
「何が遊びに来たよ!いっとくけど、あたしたちだって、
みんなが頼んだ品揃えるためにあちこち行かなきゃならないわ、
荷物は重いわで大変だったのよ〜!!」
「ま、まあまあ二人とも、ここじゃなんだし。キャスもこっちにおいでよ。
話はそれからにした方がいいんじゃない?」
キャスは小さい体を精一杯伸ばせるだけ伸ばして、
ティティスは胸まである柵から顔だけ出して毎度の口喧嘩をし始める二人。
この二人をそのままにしておくと、
だんだんエスカレートして大変な騒ぎになってしまうこと請け合いだ。
それだけはなんとしても避けたい。
ジョシュアの苦心の配慮を知ってか知らずか、キャスは素直に頷いた。
「それもそうだにゃん!そっちにいくにゃん!!」
「ちょっと、いくら小さいからって柵の隙間からこっちに来ようとするんじゃないの!
ちゃんと回って店から入りなさい!店から!!」
「あーもーティティスはいちいちうるさいにゃーん!!」
何をするにしても怒声とがなり声が止むことは無い。
昼の穏やかだった時間はこうして無情にも過ぎ去っていくのであった。


「調査?」
きょとんとした口調でティティスはいうと、キャスの方を見つめた。
なんやかんやとしたごたごたが過ぎ去り、やっとひと段落した後、
三人はテーブルを囲み、キャスのおつかいについての詳細を聞いていたのである。
ティティスの声にキャスは注文したジュースをストローで飲みつつ、こくりと頷いた。
「そうだにゃん。」
「え・・・キャスが・・・?」
あっさりと肯定したキャスに、ジョシュアは思わず怪訝な言葉を出してしまった。
調査というのは、読んで字の如く調べて査定する。
つまり、ある事柄を調べ、証拠付ける情報をあの手この手で掴むことである。
時には、非合法な手段さえ用いなければならないこの任務は、
お世辞にもキャスに勤まるとは思えない。
キャスはジョシュアの発言にいささかカチンときたらしく、
ムッという文字がぴったりの表情を浮かばせた。
「にゃ、ジョシュア、その言い方はないにゃん。キャスだってちゃーんと調査くらいできるにゃん。」
「いや、そういう意味じゃなくて・・・ほら、どんな風にキャスは調査したのかなって思ってさ」
ここでこじれると後がいろいろ大変なので、ジョシュアは慌てて弁解に入る。
じゅーっと最後の一口をストローですすっていたキャスは、動作を止め、
んー・・・とちょっと考えて口を開いた。
「別に大したことはしてないかにゃー・・・ただ、おじさんの所に情報を聞きにいっただけにゃん
おじさん、最初は恐そうな顔してたけど、
キャスがきたら凄くにっこりして頭なでなでしてくれたにゃん。
ついでに煮干までくれてたくさんの情報を教えてくれたにゃん。楽勝だったにゃん」
胸をはって応えるキャスの目の前で、
二人は何故団長がよりにもよって一番調査に向いてないキャスを調査に出したのか理解した。

(要するに、情報を持っていた人物が)

(無類のネコ好きだったってワケね・・・)

訳が分からなくても情報を聞きだせるケットシー・・・ある意味、最強である。
本当の理由に笑い出したくて引きつる頬をなんとか抑えて、
ジョシュアは未だ胸をはっているキャスにきいた。
「そっそうなんだ・・・で、どんな情報を聞き出したのか・・・っていうのは、
調査段階みたいだからやっぱり聞いちゃダメかな?」
調査とはだいたい過程段階の物事なので、
決定した事柄ではない限り混乱や誤解が生じないように
団長から傭兵に情報が公開されることはない。
疼いた好奇心に歯止めをかけるようにジョシュアが言葉を切ると、
意外にもキャスはあっさりといった。
「にゃ、別に後からみんなに話すことになってたから、別にいいにゃん。
キャスなら絶対本当の情報を持ってこれるだろうから、いいって団長がいったのにゃん。
キャスは有能なんだにゃん!!」
「あーはいはい、それで、どんな情報だったの?」
自分の功績にまだ胸をはるキャスに本音の部分はぐっと、ぐぐっと抑えて
ティティスは話の核心を問いただす。
すると、キャスは今まで張っていた胸を普段の格好に戻し、
先ほど聞いたばっかりの情報を確かめるように
ゆっくりといった。
「盗賊団・・・“ゴールデンフォックス”について・・・だったにゃん。」

『ゴールデンフォックス?』

初めて聞いた名前に、二人同時に反芻してしまう。
キャスはその二人の反応に満足したようにゆっくりと頷くと話を続けた。
「そうだにゃん。“金狐”・・・『ゴールデンフォックス』だにゃん。
盗賊団全員が黄色くて狐みたいな模様が入ってるベストを着ているから
そう呼ばれるようになったらしいにゃん」
「でっ、でも、そんな盗賊団がいたとしたら、あたしたちの所に任務が入ってくるんじゃないの?」
キャスの発言にすかさずティティスが疑問を投げたが、キャスはチッチッと指を振った。
「今のエステロミアには現れてないけど、最近、大陸ぜんどに急に現れて、
きゅーそくにせいりょくを拡大している盗賊団らしいにゃん。
だから、ここに来るのも時間の問題だろうっておじちゃんいってたにゃん」
「へー・・・大陸全土・・・か、普通の盗賊団とは違うみたいだね・・・」
考え込むように手を顎にあてるジョシュアにキャスは頷いた。
「そうなんだにゃん。他の盗賊団とは全然違うのにゃん!!
その盗賊団はお金や宝物じゃなくて・・・・武器を持っていくのにゃん。
しかも、ガラクタにしか思えない、古い武器を、にゃん」
「古い・・・武器・・・!?」
「どうしてまたそんなものを・・・?」
意味が分からない、とばかりに二人はキャスに返答を求めるが、キャスは首を振った。
「そこらへんは全然分からないらしいにゃん。
大陸中たくさんの被害が出てるのに、それにも関わらずに分からないんだにゃん。
盗まれた武器もどこにいったのかさっぱりなのにゃん。」
「・・・不思議な・・・盗賊団ね・・・」
両手を左右に曲げて“サッパリ”のポーズを作るキャスをティティスは見つめていった。
ジョシュアも同意して深く頷く。
「不思議っていうより・・・不気味だよ。目的ははっきりあるんだろうけれど、
それを少しも漏らさずここまで来てるっていうのが・・・どこかに黒幕がいるんだろうね。」
じっとテーブルを見据えるジョシュアの目は真剣そのもので、
その場にピリリとした空気が漂った。
太陽の強い光を浴びてできた黒い影が一層それを際立たせるようだった。
「・・・それで、もっと他に情報はないの?」
暗い雰囲気をなんとか打破しようと、ティティスはキャスにまた話題をふる。
キャスはしばらく頭を左右にひねりひねりしていたが、
やがて弾けたように何かを思い出したらしく、ピンと尻尾をはった。

「にゃ、そういえばその盗賊団は・・・」

その続きをいわんとした、正にその時である。
突然、木造で出来た目の前の店からドカーンという爆発音があがった。
続いて起こる、爆風と熱風の嵐。周りにあった椅子やテーブルが次々と薙ぎ倒され、飛ばされていく。
咄嗟に身を守るべく腕を交差させたが、迫り来る意思をもたない無機物たちは容赦なく迫ってくる。
寸前で分かる気配でなんとか避けられたものの、完全に避けきれなかったものもあった。
「・・・一体、何が起こったの・・・!?」
爆風が止み、熱風も風に変わり、視界が開けたとき、
目に飛び込んできたものは、目の前の建物が黒煙をあげ、
真紅と橙色の炎でなめあげらている姿だった。
「あそこにはおじいさんが・・・!!」
「行こう!まだ中にいるかもしれない!!」
燃え盛る扉をアイスボールで牽制し、
いざという時に常備しているジョシュアの剣で扉を切り裂いた。
中にはもうもうと煙が漂っており、木材独特のこげた匂いが辺りに充満している。
「くっ・・・早く見つけないと、僕達まで煙にやられてしまう・・・!!」
「にゃ・・・!こういう時はティティスのウィンドストームにゃん!!」
「ダメよ!ここでそんな大技使ったら、店まで崩れてしまうわ!」
焦りからか、語調まで怒鳴り声になってしまうが、今は構っていられなかった、
建物が爆発したのは、ほんの少し前。上手く逃げ出せていればいいのだが、
爆発のするほんの少し前にちらと店の中を覗き見た限り、老人は間違いなく中にいた。
そうなると、逃げ遅れている可能性が大なのだ。
「どうしよう・・・どうすればいいの・・・う・・・っゲホッゴホッ」
確実な手立てが無い中、炎が上がる店内に立ちすくむが、
同時に巻き上がっていた黒い煙をすってしまい、ティティスは勢いよくむせ込み、床に座り込む。
するとその時、何かが・・・焔が爆ぜる音でも、炎に焼き尽くされて崩れる壁の音でもない
微かなうめき声のようなものが前方付近で聞こえた。
「・・・おじいさん!?」
反射的に出た次の言葉に反応するようにうめき声は確かに響き、
先ほどよりはっきり聞こえた気がした。ティティスはずさま前方に進むジョシュアに叫ぶ。
「ジョシュア!その周辺におじいさんはいるわ!声がするの!間違いないわ!!」
「え・・・うん、分かった」
一瞬戸惑う声も聞こえたが、すぐに力強い声に変わった。
ジョシュアも分かっているのだ、この状況では迷ってなどいられないと。
燃えて落ちてくる木材を切り捨てつつ全神経を集中させて気配を探すと、
煙や木材が焼け落ちる音で紛れていた老人の気配が、すぐ側に現れるように感じた。
慎重にカウンターの裏を見てみると、老人が苦しそうに倒れているのが見えた。
「あ、ああ、いたよ!見つけた!!おじいさん!大丈夫ですか!?」
後方にいるティティスたちと老人の両方に聞こえるように大声でいうと、
老人はかすかな息を漏らし、朦朧としているが、息はあるようだった。
そして、ジョシュアたちを見るなり、残った力を振り絞って途切れ途切れに訴えた。

「・・・取り返して・・・くれ・・・奴らに・・・盗賊に・・・剣を奪われた・・・
昔から・・・代々私の家に伝わる・・・剣・・・だ・・・
私の・・・ことはいい・・・だから・・・早く・・・あの・・・
黄色い服を来た・・・盗賊から・・・剣・・・を・・・・・・・・・・・」

最後まで言い終わらないうちに、力尽きたのか、老人は意識を失った。
「・・・剣に・・・黄色い・・・服・・・?・・・まさか・・・!!」
「キャスの言ってたこととおんなじ奴らだにゃん!!」
先ほど話していた内容と同じ老人の言葉に、駆けつけてきたティティスとキャスは息を呑む。
ギリッと歯を食いしばり、ジョシュアは呟いた。
「“ゴールデンフォックス”・・・ついに現れたのか・・・」
その瞬間、紫だった瞳が炎より赤い真紅の色に変わった。
その瞳には関係無い者までも巻き込み、目的を遂行するためなら手段を選ばない
人間とは到底思えない輩への激しい怒りが込められていた。
同じく、ティティスとキャスの心の中にも、非情に対する怒りの思いは激しく燃え上がる。
「…行こう」
ごうごうと唸りを上げる炎の中で、彼等の闘志もまた静かに燃え出していくのだった。


つづく



chase the golden fox............