空に舞うシャボン玉


パレスを吹き抜ける風はまだ冷たかった。
毎日、寒い頃なのに、プリンセス・レインがシャボン玉をしようといってきたのには驚いた。

「だって、今朝はおひさまが射してるんですよ」

それが彼女の言葉だ。
だから僕たちは一緒にパレスの屋上にのぼって、空に向ってシャボン玉を吹いている。
風が時折強くなって、小さなシャボン玉が巻き上げられるように素早く、くるくると空へ散っていった。
そんな様子も面白いのかレインはコロコロと笑う。

「ブライト様、今日の空は真っ青ですね」

君が、豊かな髪をなびかせてこちらをみる。僕はそれに微笑み返した。

新年の祝賀が行われたのは昨日のことだ。
今年は宝石の国が会場であったから、各国の王族方をお招きした。
そこで当然のことながら、宝石の国のキング、クイーン、そしてプリンス、プリンセスが挨拶を述べる。
僕はあの時、なんといったろう。

パレスからみえるのは大きく広がる庭園。そのずっと向こうから家並みが目にとまり、穏やかな午後の光を反射している。

――ふしぎ星の平和と発展を願って――

確かに、僕はそういった。けれど、

「なにが平和をもたらし、どこまでを発展というんだろう」

小さくつぶやいた僕の声は、先ほどのシャボン玉と同じように空へ舞飛ぶ。
傍らで脆くも七色をたたえるしなやかな宝石を生み出し続ける少女の耳には届かない。

まだ、届かなくていい。

けれど、そのうち、僕はきっと君の耳元で囁いてしまうね。

大切なものはなんなのだろう、って。



君と、答えを探していいかい?
僕は…いつも心になにかを抱えているんだ。
それは生まれた時からあるもので、この国のプリンスに生まれた時から備わった気持ち。
きっとそれは、僕の生涯が終わるまで消えないだろう。
時々、自分が、僕であって僕でない気がするんだ。

僕は、誰なんだろう。
そして僕はね、
絶対にこの立場に生まれたことを胸に持ち続けて生きてしまう。
いや、生きたいんだ。

だから、おそらくあなたの望むことをすべて叶えることなどできないだろう。
お父様がそうであるように。僕も、この身は宝石の国のものだと思っている。

でも、ささやかで穏やかな幸福を大切にもしたい。たとえば君と一緒にいるこんな時。
僕も、ただのこどもなんだなぁって感じる。

ねえ、君はプリンセスである自分のことを、どう考えているの?


「レイン」
「なんですか、ブライト様」
「…ブライトでいいよ」
「あ、あの…えっと…はい…じゃあ…そのうち…」

僕ははにかんだ彼女の隣にしゃがみ込み、その顔のすぐ横にほほをよせて、そしてちいさなシャボン玉をいくつもいくつも吹きだした。



end


湖葉沙紗さんからいただいた小説です。
サンタクロースの小説に加えて、書き下ろしで!ここポイントですよ書き下ろしで!
いただいちゃいましたー!!わーわー本当にありがとうございます!
いろいろと考えるブライトが本当にらしくていいですね!
湖葉さんのブライトとレイン大好きさ!
素敵な贈り物を本当にありがとうございました!(*´v`*)

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