「ちょっと待って」
レインの制止の声に、ブライトは快調に進めていた歩みを止めた。
隣りにいたはずの彼女は、いつの間にか消えていた。
今来たばかりの道を振り返ると、レインは店のショーウィンドウを熱心に見つめていた。
疑問符を浮かべながら、ブライトはレインの隣りからガラスの奥を覗き込む。
中にあるのは、パステルカラーの布で飾られた台と、競うように輝くいくつものデコール。
レインはその中の一つ、雫をかたどった青い宝石のついたネックレスに熱い視線を注いでいた。
そんな彼女を見て、ブライトはクスリと笑う。
デコールに負けず劣らず輝く、エメラルドの瞳を見つめ、彼女の手を取った。
「え?」
きょとんとするレインをよそに、ブライトは彼女の手を引いて店に入った。
カランカランというベルの音が響き、店内に足を踏み入れると、スーツ姿の女性がにこりと微笑んだ。
いらっしゃいませ、という声を聞くよりも早く、ブライトは話を切り出す。
「すみません。店の前に飾ってあるネックレスを・・・」
不自然に途切れた台詞は、続きを言うまでもなく理解した店員によって処理された。
何も言わずショーウィンドウの方へと向かう店員を横目に、ブライトはレインの方に目をやる。
台詞を中断させた本人は、どうやら無意識らしく、つないだ手の力を弱める気配も見せない。
くすぐったいような気持ちになって、手を握り返した瞬間、レインが自分の行動にようやく気付いた。
離れようとする彼女に微笑みかけ、どうしたのかと訳を聞いた。
「だ、だって、手が・・・」
真っ赤になってうつむくレインの慌てぶりに、フフッと笑みをもらしながら、
「そうじゃなくて、ネックレスの方」
内緒話でもするように、声をひそめて言った。
低くささやくような声にドキリとしながら、レインは何とか説明する。
あのネックレスは欲しいけど、大人っぽい雰囲気だから、私には似合わないかもしれない。
そう心配そうに話すレインの様子を、ブライトは静かに見ていた。
不安げな表情や自信なく伏せられたまつげを、見つめていた。
そしてレインの説明が終わるのと同時に、店員がケースに入ったネックレスを持ってきた。
「こちらの商品でよろしいでしょうか」
今ならまだNOと言える。
そう思ってしゃべろうとするレインをさえぎるように、ブライトが彼女の前に進み出た。
動揺しているレインを背に、ブライトは微笑んで肯定した。
レインがなすすべもなく立ち尽くしている間に、事はどんどん運ばれていく。
「恋人へのプレゼントですか?」
ほのぼのとした調子の店員に、ブライトははにかんだ笑顔で答える。
「ええ。とても大切な人への贈り物なんです」
レインは体中の血が顔の方に上がっていくのを感じた。
信じられないくらいの幸福感に包まれ、視界がにじみ出す。
せっかくの彼からのプレゼントなのに、涙でぼやけてよく見えない。
そんなレインの背を押して、ブライトは店を出た。
するとすぐに、きれいに包装された箱を開け、ネックレスを取り出した。
「僕がつけてあげても・・・いいかな?」
目の縁をぬぐいながら、レインはコクリと首を縦に振った。
ブライトは金具の両端を指でつまみ、彼女の首にネックレスをかける。
胸元で光る青い宝石が、レインの髪色に映えて、よく似合っていた。
レインはしきりに全身の身だしなみを確認し、何度もショーウィンドウに移る自分を見た。
心もとない顔をするレインの髪に手を伸ばし、ひとふさ引き寄せる。
スカイブルーの髪にそっと口付けると、ブライトは白い歯を覗かせた。
「よくお似合いですよ、姫君」
The end
「STAR DAST」の枯野黄泉さんが1万ヒット記念にフリー小説を配布してらしたので迷わず強奪してきましたv(を)
ほのぼのとした雰囲気、何気ない日常の中の心の動きがとても丁寧に描かれていていいですよね〜v
純粋なレインとちょっと強引なブライトがかっこいいですv
少々キザなこともさらりとやってのけるブライトはある意味最強ですよね(笑)
すてきな小説ありがとうございましたvv
背景素材は偶然にも(!)同じ名称の、「STAR DAST素材館」さんの素材を使わせて頂きましたv