ある日の昼下がり



今日の天気は快晴!!
ピカピカに光る太陽にふんわり穏やかに流れる雲。
優しい風がそよそよとそよいですごく気持ちいい!
気温も、暑くも無く寒くも無くといった感じで、凄く過ごしやすいしね。
この前まで暑くてたまらなかったのが嘘みたいだわ。
幸い任務も入ってないし、こんな日は、野原に散歩に行ってのんびりするのが
一番いい午後の過ごし方だと思わない?
この前、穴場で一面に広がる花畑を見つけたから、そこで過ごすならもっと素敵よね。
そうだ、ジョシュアも誘おうかな・・・こんな時でないと滅多に二人っきりなんてなれないし。
今日は幸い、キャスも他のほとんどのメンバーもショッピングに行っちゃったしね。
うん、ちょっと照れるけど、勇気を出して誘おう・・・誘っちゃおう!
そう思ったあたしは、足取り軽く今までいた自分の部屋を駆け出していったの。

「ジョーシュアー、ねえ、今日はいい天気だし、一緒に散歩にでも・・・ってあれ?」

勢いよく彼の部屋を開けたら(ちゃんとノックはしたわよ?)、そこにお目当ての彼の姿はなかったわ。
ただ、窓が空いていて、カーテンがゆらゆらと優しい風にゆられて靡いていただけ。
「?ここにいないってことは・・・訓練場かしら?」
いつも、ジョシュアが休日の日にしていることといえば、自分の部屋で本を読んでいるか、
訓練場で訓練をしているかのどちらかだから、あたしは迷わず訓練場の方に駆け出して・・・
行こうとしたんだけれど、そこでピタッと動きを止めたの
「・・・あれ?何かおかしくない?」
さっき見たジョシュアの部屋の様子・・・どこか腑に落ちないのよね。一体何かしら?
そう思って、くるりと振り返ってジョシュアの部屋をもう一度見てみたの。
整然とした棚、綺麗に整備してある剣、それからゆらゆら揺れるカーテン・・・
・・・ん?ゆらゆら?
あたしはピンッと閃いた。
「そっか、窓が空いてるのが変なのよね!」
いつも戸締まりはキチンとしてある彼の部屋。
ドアは何かの用で開けているってことはたまにあるけど、窓はいつも閉まってたわ。
なのに何故今日に限って開いてるのかしら。
あたしは好奇心に動かされて、窓の縁へと歩んでいったの。
そうしたら、淡い水色のカーテンの隙間からあるモノが見えたのよ!

「は・・・はしご!?」

ここ2階なのに、なんでこんな所にはしごがあるの???
あたしはびっくりして、思わずはしごの先に目を走らせたわ。
それは、屋根の上へと続いていて、そこで途切れてた。
屋根の上・・・?なんでそんな所にはしごなんてかけてあるのかしら?
「なんだか分からないけど・・・よーし!はしごがあるんなら、登らせてもらおうじゃない!」
ここまできたら乗りかかった船。先に何があるのかとことん確かめてやるわ!
・・・そうやってあたしはゆっくりと慎重にはしごを登っていったの。
はしごは錆びていたけれど、とても頑丈で、きしみもしなかった。
でも、落ちたら危ないから、ゆっくりと時間をかけて登って行った、その先には・・・

「ジョ・・・ジョシュア!?」

そう、登りついた先にいたのは、なんと、ジョシュアだった!
なだらかに傾いている屋根の上に、本と、それを持っていたと思われる左手を胸に乗せ、
微かに寝息をたてているジョシュアがそこに寝そべっていたのよ!
「・・・そっか・・・ここがジョシュアの秘密の場所って訳ね・・・」
あたしは彼の秘密を少し知ったみたいで、ふふっと笑ってしまった。
そんなあたしの気配に気づこうともせず、彼は無防備にすーすーと静かに寝入っている。
・・・めずらしいわね。いつもならこっちが気付く前に、すでに気配を察する彼なのに。
よっぽど寝入ってるのかしら。
そう思いながらマジマジとジョシュアの顔を見つめる。
端正な、でもまだ幼さの残る顔立ち、日に透ければ、金色にも見える栗色の髪、
連日の戦いで日に焼けた肌、どれも、とても・・・とても綺麗で。
見つめていれば見つめている分だけ、だんだんとドキドキと心臓の鼓動が早まり、頬がほてってくる
う・・・、心臓に悪いわホントに・・・でも・・・こんなに間近でジョシュア見たのって初めてかも・・・
ほとんど毎日顔を合わせるっていうのにね。

考えてみれば、あたしはジョシュアについて、なーんにも知らない。
知ってるのは、彼はいつも穏やかに笑っているけれど、その奥深くにはいいようのない
悩みと悲しみがあることだけ。
誰にも言えない、言い出せない悩みは影の部分で彼を縛っているんじゃないかとさえ思う。


だから、ね。


「話して」なんて言わない。ただ、自分一人で抱え込まないで、ほしい。
あなだかいつでも本当に、心の底から笑っていられるようになってほしいから。
そのためなら、あたし、なんだってするわ・・・。

唇をギュッと結んで、あたしはジョシュアを再度見つめた。
こうして見つめていると、あたしは本当にジョシュアが好きなんだなあって・・・素直に思えてくる。

好きだからこそ・・・あなたのことをもっと知りたいと、思う。
好きだからこそ、好きになったからこそ、あたしのこともその瞳に映して欲しいとも思う。
そんなこと今まで考えたことなんてなかったのに、今は心から思っている。
好きになるって不思議よね・・・

「・・・ふふっ・・・我ながら、なーに考えてるのかしらね。」
ちょっと乙女思考回路モードになってしまった自分を恥じつつ、視線を反らす。
ジョシュアの寝顔が見れて、凄く得した気分でうんんっと伸びをすると、
視界の端がハタと何かを捕らえた。
それは、ジョシュアの・・・本に添えられた左手の対になる、右手。
その手は開いたまま、体との間に少しの間をあけて投げ出されている。。
ふい、にちょっとした旋律が体に走った。





「握っても・・・いいよね?」





一度も、触れたことの無い、彼の、手。
いつもなら絶対にできないけど・・・今なら、できる。
彼が寝ているということがあたしを大胆にした。
そっ・・・とそっと手を伸ばす。本当にそっと。
風だって気付かないくらいにそっと伸ばし・・・そして、触れた。

ジョシュアの手はさすがに剣士らしく、よく鍛えられたゴツゴツした感触だったけれど
大きくて、何より・・・温かかった。

それに触れた瞬間、ビリリと電撃のようなものが体中を駆け回る。
恥ずかしいような、嬉しいような、そんな感覚が胸に湧き上がってきて、
あたしは思わず、顔が真っ赤になってしまった。
「ここで起きられたら、かなり気まずいわよね。」
踊り出す胸を勇めようと言葉を出したんだけど、その語調も何か楽しそうに震えていて、
湧き上がる思いには全然効かなかったみたい。
やっぱり嬉しそうに苦笑して、あたしは空を見上げた。

今日の天気は快晴。
ピカピカに光る太陽にふんわり穏やかに流れる雲。
優しい風がそよそよとそよいですごく気持ちいい。
でも心がこんなに躍っているのは、あなたのせいよ。
いつか・・・いつかあなたが目覚めている時にこんな風に手をつないで歩けたらいいな。
来るといいな。そんな日が。
温かい日がさすある日の昼下がり、あたしは心からそう願った。




えんど。

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