それは特別


「そうえいばさ、どうしてレインはずっとブライトのこと、呼び捨てにしないの?」

ある日の何気ないティータイム。
赤い髪の私の分身は、首をかしげてそういった。
先ほどまでいた2人の王子は、ちょっと汗を流してくるとかで席を外しており、
綺麗にそろえられたカップがその場においてあるだけだ。
「……どうしたの?急に」
「んーなんとなく、変だなーって思って」
腕を頭にまわして、椅子をゆらゆらとゆらしながら、ファインがこっちを向いた。
「シェイドのことは、呼び捨てにしてるじゃない?
 なのに、なんでかなって思って」
じっと見つめてくる赤い瞳には、
『好きなら、なんで?』という言外ににじませた疑問が見えてくる。
そういうことが分かるようになったなんて、随分ファインも恋する乙女になってきているのね。
「知りたい?」
こちらの答えをじぃっと待っている双子の妹に、
少し余裕を含ませて、あえてじらした態度を取ってみる。
「そりゃあ……」
らしくなく、口ごもる態度がとてもかわいいと思う。
私が思うんだから、ファインのことを気になっている、月の国の王子様には効果的面でしょうね。
……しばらく、こういう表情させないようにしないといけないわね。
思い浮かんでくる自分的に厄介者な人物を追い払い、
少しずつ自分の質問に恥ずかしくなってきているであろう妹の質問に答えようと口を開いた。
「それはね、『特別』だから、かな」
「特別だから?」
「ええ。ブライト様のこと、好きだから、そう呼んでるの」
「……でも、普通は、名前だけ呼びたいって思うんじゃないの?」
「あら、普通は……ってことは、ファインはそうなの?」
「ち、ちがうよ!そうじゃなくて!
 ……そ、そのアルテッサがそういって……」
慌てふためく姿にくすりと笑う。
私は今までもっていたカップをそっとソーサーの上において、
じっとファインを見つめた。
「そうね。私も、本当は名前で呼びたいって思うわ。
 ……だけど、私はブライト様のことを好きだけれど、
 ブライト様自身は私のこと、 妹みたいな存在としてしか見てないのよ。
 だから、私がいつかブライト様の『特別』になれたとき、
 自分から、そう呼んでいいっていってくれたときに
 呼ぶようにしたいと思ってるの」
いつ叶うのか、わからないことだって自分でも分かってる。
だけど、必ずその日が来ることを信じて、私はそう呼ぶのよ。
「……そっか」
暫くの間があってから、ファインがぽつりといった。
そして、たたたっと私のところにきて、私の手を握った。
「早く、その時が来るといいね」
「……うん」

あの人がいつ、私の気持ちに気づいてくれるのか、分からないけれど、
どうか、早く、気づいてくれますように。

「あ、2人とも、帰ってきたみたいだよ」
「ほんとうね。あ、ブライト様―!」

特別な気持ちを胸に、私は今日も彼の名前を呼ぶ。


 fin




久しぶりのふたご小説です。
レインがいつも「ブライト様」って呼ぶのには
理由があんじゃないかしらとこじつけて考えたという……(笑)
王子は本編以来『恋愛』に対してまっさらな状態に戻っていると思っているので、
本当に自覚するには時間がかかると思います。
それを待てるレインであってほしいな、と思うし、多分きっと彼女は待てる、そう思うのです。

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